体験談(留学・高度)

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By KOKORO(毎日新聞社+VAIJ主催、在ベトナム日本国大使館など後援)

今回の先輩

Doan Thi Minh Trang(ドァ・ティ・ミン・チャン)さん

1991年生まれ、Hai Duong 省出身
2009年6月 Nguyen Trai 高校卒業
2009年9月 ハノイ人文社会科学科大学東洋学部 日本学科 入学
2012年9月 大東文化大学 国際関係学部 国際関係学科 交換留学生
2013年 9月 ハノイ人文社会科学科大学 再入学
2014年 6月 ハノイ人文社会科学科大学 東洋学部 日本学科 卒業
2014年 7月 日系企業(製造)入社(正社員、通訳・翻訳業務)
2015年4月  メイワ・ベトナム入社(営業)

はじめに

私はハノイのメイワ・ベトナム(Meiwa Vietnam) という日系企業で働いています。通訳・翻訳もしますが、営業や顧客のフォローを担当しています。私は交換留学で日本の大学で1年間学びましたが、その間、ほとんど日本語だけで生活し、日本語力を高めて帰国することができました。この経験があったためにハノイで大きな日系企業に就職することができました。現在、子育てを義母に手伝ってもらいながら仕事を続けています。

日本留学のメリットとして、「日本語漬け」の環境に置かれ、日本語が上達するということが第一に挙げられます。また、日本人の生活・性格・文化・習慣も学べ、日系企業で働く上でも歓迎されます。そのほか、親から独立して生活するので、時間やお金を自分で管理する習慣が身に付く▽ベトナム人以外の外国人留学生との交流が多く、さまざまな国の友達ができる▽日本の美しい景色を楽しめる――といったメリットもあります。ただ、留学で十分な成果を得るには、ベトナムでしっかり勉強してから日本に行くことが大切です。そうしたことを含め、私の留学経験についてご紹介します。

週末は、長女をたくさん抱っこしてあげます。
【2019年3月】

日系企業で活躍の場

私の勤務先の「メイワ・ベトナム」は「明和産業(Meiwa Corporation)」という日本の商社の現地法人で、本社はホーチミン市にあります。私は通訳・翻訳だけを担当しているのではなく、受注・発送を含む営業業務全般を任されています。税引き後の給料は約1,900万ドンで、日本語力や経験、学歴などを高く評価してもらっているように思います。人材紹介会社に履歴書を送って登録したところ、運良くこの会社を紹介してもらえました。

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私の勤務するハノイ支店は日本の塗料や樹脂を扱っています。販売先は主に日系企業で、日本人の営業マンと一緒に顧客に会って通訳やメモをし、成約後も受注・発送・顧客フォローを行います。

以前にも別の日系企業に勤めていました。とても有名な会社で、働きやすい職場でしたが、仕事の内容が通訳・翻訳だけだったので、別の勤務先を探していました。今の会社に転職して給料は2倍以上になりました。そして、今の会社に移った後の2018年8月、初めての子供(女児)を出産しました。産前・産後に計7週間休んだ後、職場に復帰し、夫の母に子育てを手伝ってもらいながら勤務を続けています。

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職場近くのカフェ・ラウンジで【2019年6月】

大学入学後に日本語学習

日本語の定番テキスト「みんなの日本語」

私が日本語の勉強を始めたのは大学に入ってからです。大学の日本語テキストはロングセラーの「みんなの日本語」(出版社:スリーエーネットワーク)などでした。4年生のときに1年間、東京にある私立の「大東文化大学」に交換留学しました。交換留学は、ベトナムの大学と日本の大学の協定に基づくプログラムで、留学期間中、毎月8万円(約1,725万ドン)の奨学金(海外留学支援制度奨学金)を日本学生支援機構(JASSO)からもらいました。しかし、成績優秀者しか交換留学に行けないので、大学入学後、一生懸命に勉強をしました

交換留学のプログラムを知ったのはハノイ人文社会科学大学に入ってからです。日本学科24人のうち10人ぐらいが交換留学生に選ばれ、東京大学、専修大学などさまざまな大学で留学できます。私は交換留学生に選ばれるよう、一生懸命に勉強をしました。日本語の勉強に特に時間をかけ、大学のテキストなどで毎日2時間以上勉強しました。また、定期試験では日本語以外の教科でも良い成績をとれるように努力しました。

私は高校に通った3年間、日本の新聞社から毎月1,000円(約214,800ドン)の奨学金をもらいました。金額は大きくありませんでしたが、勉強の参考書などを買えたのでとても助かりました。このため、「日本ともっと関わり、日本とベトナムの友好のために貢献したい」と思い、大学の日本学科を選びました。もちろん、ドラえもんやコナンも大好きで、日本への親近感はもともと持っていました。

日本での生活

・交換留学生への奨学金を受給
・アルバイトで日本語上達(そのためにも留学前の勉強が大事)
・留学生向けの寮で上手に生活

外国人留学生仲間や大学の留学生指導者と一緒に伊豆に旅行【2013年2月】

交換留学生にはJASSOから毎月8万円の奨学金が支給されるので、留学中のアルバイトはあまりたくさんしなくても済みました。大学の留学生寮に入ったので、家賃も格安でした。また、日本に行く前に日本語の勉強を頑張り、日本語能力試験(JLPT)のN3程度の力を身につけてから留学したので、日本で良いアルバイトがすぐに見つかりました。仕事の中で日本語を使う場面が多く、大学の授業だけでなくアルバイトを通じても日本語力を高めることができました。こうして、1年間の留学を終えて帰国後、すぐにJLPTのN2に合格しました。

交換留学生に対するJASSOの奨学金制度: https://www.jasso.go.jp/en/index.html

大東文化大学には留学生寮があり、家賃は格安でした。台所やシャワー、トイレは共同ですが、部屋は個室(1人に1部屋)です。50,000円(約1078万ドン)の寮費の中に電気代や水道代などの光熱費が含まれ、無料インターネットもありました。みんなで使う食堂にテレビがあり、個室にベッド・机・本棚が付いていたので、大きな家具を購入する必要もありませんでした。

私の家計簿(1カ月の平均)

※100円=21,570 VND(2019年10月3日現在)

収入(合計140,000~150,000円)

アルバイト1件(飲食店店員など) 60,000~70,000 円
※奨学金があったので必要最小限のアルバイト時間にとどめ、勉強に時間をとった。
JASSOの奨学金 80,000円

支出(合計 95,000円)

家賃(寮費) 50,000円
※個室/トイレ、シャワー、台所は共同
※インターネットwifi無料
携帯電話  5,000円
食費 20,000円
※主に自炊
授業料 0円
交通費(通学など) 10,000円
雑費 10,000円
※衣類や書籍など

差額(貯金)平均45,000~55,000円

※ベトナムへの仕送りはなし。貯まったお金は主に旅行や緊急出費などに使った。

日本でのアルバイトと訪日前の準備

・日本に行くまでに日本語力のスキルアップ
・ケーキ屋やKFCでアルバイトを通じて会話力向上
・無料の求人情報誌(日本語)でアルバイト探し

交換留学が決まって日本に行く前の数カ月間、日系企業のベトナム人従業員に日本語を教育する施設で受付のアルバイトをしました。日本人の教師が何人かいたので、「授業の準備でお手伝いすることはありませんか」と自分から話しかけ、資料整理などを手伝いながら先生たちと日本語の会話をたくさんするように心がけました。

日本では、ケーキ屋やケンタッキー・フライドチキン(KFC)でレジなどを担当しました。お客さんと会話する仕事にすぐに就けたのは、日本に行く前にしっかり準備の勉強をしていたからです。アルバイトで日本語を使い続けたことは、日本語力を高める上で本当に役に立ちました。

【アルバイトの探し方:求人情報誌】

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日本での留学を始めて約1カ月後、寮の近くのケーキ屋でアルバイトを始めました。どうやってアルバイトを探したかというと、駅やコンビニに無料で置かれている求人情報誌(日本語)を読みました。こうした求人情報誌には地元のアルバイトがたくさん紹介されています。その中から、店員など外国人留学生を採用してくれそうな仕事を探して電子メールで履歴書を送りました。履歴書を3、4件送ったうち、最初に面接をしてくれたケーキ屋で採用が決まったので、そこで働くことにしました。面接で自分の言いたいことはそれほど伝えられませんでしたが、求人情報誌も読めましたし、面接で相手の言っていることは7割ぐらい分かりました。

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【アルバイトの探し方:友人からの紹介】

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ケーキ屋で約4カ月働きましたが、クリスマスの繁忙期を過ぎて、そのお店のアルバイトが打ち切りになりました。そこで、今度は同じ大学の中国人留学生が働いていたケンタッキー・フライド・チキン(KFC)を紹介してもらいました。KFCでは、最初は厨房でしたが、最後の3カ月間はレジを担当しました。

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日本語学習のポイント

・日本語コミュニティーに身を置く
・日本語を話すアルバイトに早く就く

私が日本に留学したころは、まだベトナム人が日本にそんなに多くはなく、周りにいるのは日本人や外国人留学生だけでした。留学生寮には外国人留学生が約20人いましたが、さまざまな国から来ているので、共通言語は日本語(たまに英語)でしたし、アルバイト先でも日本語しか使わないので、日本語を聞いたり話したりする機会がふんだんにありました。

最近は日本に在留するベトナム人が増えましたが、ベトナム人コミュニティーに安住するのではなく、日本語コミュニティーに自分から積極的に入っていき「日本語漬け」の状態を自分でつくる努力が必要かも知れませんね。また、日本に行ってから、日本語を使うアルバイトに早く就けるよう、訪日前にできるだけの準備(日本語のスキルアップ)をしていくことが大事です。

大東文化大学の留学生仲間たちと。
各国からの留学生が集まっているため、留学生仲間の間での共通言語も主に日本語でした。
【2013年2月】

日本を楽しむ

寮の近くに日本人の初老のご夫妻(猪鼻さん)が住んでいました。このお二人に中国語を教えていた中国人留学生の紹介で私もお二人と仲良くなり、毎週1回、食事に招いてもらうようになりました。猪鼻さんご夫妻とは、今もLINEなどでメッセージを交換しています。


また、ときどき旅行にも行きました。帰国直前には大阪や京都に約1週間旅行しました。東京から大阪へは格安の夜行バスを使い、大阪では、ベトナム人の友人宅に泊めてもらいました。

留学のメリット

ベトナムに帰国して最初に勤めた日系企業で夫と出会い、結婚しました。今は、夫の母に長女の子育てを手伝ってもらいながら二つ目の日系企業で勤務しています。日系企業で働くメリットは、①給料がよい ②日本人の働き方を身につけられる ③勤務先として安定性がある――などが上げられると思います。こうした一流企業に就職できたのは、日本での留学経験が役立ったからです。

交換留学の場合、日本での学費もかからずJASSOからの奨学金もありますが、私費留学生に対してもJASSOなどさまざまな機関が奨学金制度を設けています。また、成績優秀者には、専門学校や大学の授業料減免制度もあります。日本で留学したい人は、まずはベトナムで日本語の勉強をがんばることから始めましょう。そして、実際に留学したら、アルバイトでお金を稼ぐだけではなく、日本語力を高めることを第一に考えましょう。そのことが、あなたの日本やベトナムでの就職に役立ち、仕事のやりがいや長期的な収入安定につながると思います。

私費留学生に対するJASSOの奨学金:
https://www.jasso.go.jp/en/study_j/scholarships/shoureihi/index.html