文化
ベトナムの常識・日本の非常識_28:浴そうの湯は抜きません
日本では浴そうの外で体を洗い、浴そうの湯は家族みんなで使います。今回は、お風呂に関する日本の文化と「駐車違反のステッカー」「自転車の防犯登録をしないとどうなるか」について紹介します。【Thạch Long】
入浴―日本とベトナムの違い
私が子どものころ、ベトナムの祖母の家には浴そうがあり、私と2人の弟は毎日お風呂に入っていました。祖母は浴そうを湯で満たし、まず私を入らせます。私の入浴が終わったら浴そうの湯を抜いてさっとすすぎ、弟のために新しい湯を入れます。だれかが入浴する度にこれを繰り返します。古い湯を流し、新しい湯で満たすのです。
多分、ほとんどのベトナム人はこのやり方が一般的だと思うでしょう。しかし、日本の入浴方法は違います。日本に住んでいる私の姉はこのような話をしてくれました。姉たちはある日、ベトナムから来た親せきを家に泊めました。そのとき、彼に最初にお風呂に入ってもらうと、彼は入浴後、浴そうの湯を流して次の人のために新しい湯を入れました。姉はそれを聞いて爆笑しました。
多くの日本の家庭では、温泉や銭湯と同じで、浴そうには1日1回しか湯をはりません。最初に入れた湯に家族全員が順番に入ります(途中で湯を足したり、追いだきをしたりすることはあります)。そのため、湯を汚さないように、次のような流れで入浴します。
・浴そうに入る前に手おけやシャワーで体に湯をかけて軽く洗う。
・浴そうに入って体を温めたら、洗い場に出て体や髪を石けんやシャンプーで洗う。
・その後、再び浴そうに入る。
このように、日本の入浴は「体を洗ってから浴そうに入る(湯につかる)」のが基本です。浴そうの湯をなるべく汚さず、家族で湯を使い回します。このため、多くの場合、浴室はトイレと別の部屋になっており、浴そうの外に体や髪を洗うためのスペース(洗い場)があります。
そのほか、日本のお風呂については次のような文化があります。
・小さい子どものいる家庭では親子や家族全員で一緒に入浴することも多い。
・夫婦が一緒に入浴するのも珍しくない。
・風呂の残り湯を洗濯に再利用する家庭もある。
風呂の残り湯を洗濯に使うため、日本の洗濯機には、浴そうから水を吸い上げて洗濯そうに送り込む装置がついているものが多いです。また、浴室の近くに洗濯機置き場を配置する設計の家が多いです。
他人の車に「駐車禁止」のステッカーをはってはいけない!?
ベトナムでは最近、無断駐車の自動車への対処について議論があります。店の前に違法駐車をされて迷惑しているレストランのオーナーは「駐車禁止」というステッカーをその車にはり付けることがあります。この行為について意見が分かれているのです。
一方は「駐車した人のマナー違反だから当然」とオーナーの肩を持ちます。他方は「たとえ駐車違反だとしても、他人の車にステッカーや粘着テープをはり付ける権利はなく、器物損壊の可能性がある」と指摘しています。
他人の車に粘着テープを貼るのはちょっとやり過ぎですが、ベトナムでは、警告ステッカーをはるぐらいは一般的です。おだやかなやり方では、「ここに駐車しないでください」と書いた紙をフロントガラスにはり付けます。激しいケースでは、車のボンネットにゴミを置くこともあるようです。
しかし、日本で車にはり紙をする人はあまりいません。ステッカーや粘着テープをはると大きなトラブルに発展するかも知れないと考える人が多いようです。せいぜいフロントガラスのワイパーに注意文を書いた紙をはさむか、がまんして何もしないケースがほとんどです。日本では、違法駐車で困った場合、多くの人は警察に通報します。通報に対して警察は公平に対応しますので、どうしても困ったときは、あなたも警察に通報してください。
自転車を買ったら防犯登録をしましょう
ベトナムで自転車を買うのはシャツやパンツを買うのと同じくらい簡単です。買ったらすぐに使えます。自転車を買っても登録などの手続きは不要で、お手軽な乗り物です。
日本でも手ごろな価格で手に入り、運転免許もいらないので、自転車を持っているベトナム人も多いと思います。ただし、日本で自転車を持つには「防犯登録」が必要です。ベトナムにはありませんが、日本では法律で義務付けられていますので、覚えておきましょう。
登録は簡単です。自転車を売る店はたいてい「自転車防犯登録所」となっており、購入と同時に店で登録できます。登録料は自治体によって異なり、東京都では660円(非課税)です。
ネット通販やフリーマーケット・アプリ(フリマアプリ)で購入した場合は、自分で登録しなければなりません。その場合に必要なものは次のとおりです。
①自転車本体
②保証書または販売証明書
③在留カードなど自分の身分証明書
フリマアプリなどで個人から購入した場合は②がありませんので、代わりに譲渡証明書(売り手の個人情報や押印など)が必要です。友人や先輩から譲ってもらった場合も譲渡証明書が必要ですが、その人と一緒に店に行くと、スムーズに登録できます。
それではなぜ、防犯登録をする必要があるのでしょうか?日本で自転車の防犯登録は法律で決められた義務ですが、登録しなくても罰則はありません。ただし、登録してないと困るケースがあります。
まず、自転車を盗まれた場合です。警察に被害届を出しても、防犯登録をしていないと、盗まれた自転車が見つかる確率が低くなります。防犯登録ステッカーが自転車を特定する目印になっているからです。
また、自転車に乗っているときに警察官に止められ、職務質問されることがよくあります。防犯登録をしていない理由を聞かれるほか、盗難車でないことを警察官が確認するなど、時間と手間がかかります。実際に私も警察官に呼び止められ、大変な思いをした経験があります。簡単な手続きで安心できますので、自転車を手に入れたら防犯登録をしましょう。
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日本のビジネス文化_02:職場に私物を届けない
ベトナムでは、ネットショップで買った商品を職場に届けてもらうのはよくあることですが、日本ではNGです。また、日本人は長期休暇が終わった次の日から「仕事モード全開」の状態に戻ります。私はベトナムで9年間働いた経験があり、3度の日本留学を経て日本で正社員として働いています。ベトナムと日本のビジネス文化の違いをお伝えしていきます。〈Vân Hoàng〉 「オン」「オフ」の切り替え ハノイで働いていたとき、日系企業はベトナムの会社より祝日が多いのでうらやましいと、ずっと思っていました。2021年10月に東京の会社に入社すると、正月休み以外にも毎月のように3連休がありました。 すごくうれしいのですが、私にとって大変なこともあります。それは仕事とプライベートの「オン」「オフ」を切り替えることです。連休後にいかに早く気分を切り替えられるかが課題ですが、周りの日本人の同僚たちはプロで、連休明けでも朝からしっかり「仕事モード全開」の状態です。 日本では年末年始に約1週間の休みがあり、1月の初出社の日に社長が社員に新年のあいさつを述べます。それが終わった途端、同僚たちは皆、1週間の休暇がうそのように、完全に通常の仕事モードに入っていました。 ベトナムでは「1月は遊びの月だ」という言葉があります。ベトナムの正月休み(旧正月=テト)の期間はもちろん、その前後を含めて約1カ月は遊びモードで過ごすという意味です。連休前はテトの準備や買い物、連休の過ごし方を考えることでそわそわ過ごし、連休後は新年会や初詣、春の旅といったさまざまなイベントで頭がいっぱいです。 それに比べて日本人の「オン」「オフ」の切り替え方には感心させられるものがあり、日本が大きな経済成果をあげてきた背景の一つだと、一緒に働いてみて感じました。 公私の区別もしっかり このように「仕事の時間」と「プライベートの時間」をしっかり切り替える日本人は、時間以外の点でも公私をしっかり区別します。例えば、私の同僚たちは勤務時間中は仕事に集中し、雑談や家庭の話はほとんどしません。 また、日本では従業員の私物が会社に配達されることもありません。ベトナムでは、ネットショップで買い物する場合、会社に届けてもらう人もたくさんいます。私もそうでした。しかし、日本の会社ではそのような人はいません。私も今は、ネットショッピングで買った商品は週末に自宅で受け取っています。 昼休みは休んではいかが? このようにしっかり働く日本人ですが、それが行き過ぎるのか、「オフの時間を大事にするのは少しへたかも」と思う場面があります。それは毎日の昼休みです。 日本の会社に入って一番驚いたことは日本人の昼休みの過ごし方です。以前、ハノイの大学で日本語を教えていたとき、同僚の日本人(法律の授業を担当する弁護士)が、「日本ではランチを5分で済ませる人も多い」と話していました。私はそれを聞いて「大げさだ」と思っていました。 しかし、日本の会社で働いてみると、それはまったく誇張ではなかったことが分かりました。当社には、昼休みを短縮する人もいますし、ランチを食べずにずっと仕事をする人もいます。また、ベトナムではあり得ないことですが、会議に出席しながらランチを食べることもあります。 ベトナムでは「天罰ですら食事の時間は避ける」ということわざがあります。食事の時間を大切にしようという意味です。日本の正社員なら、多くの場合、労働契約書に昼休みは1時間と書かれていますね? その時間をどのように過ごすかは自由ですが、自分のための時間をもう少し大切にしたほうが良いのではないかと思うこともあります。 休憩を取った方が仕事の能率向上にもつながると思います。また、会社の人と一緒にゆっくりランチを食べながら、いろいろな話をするのも有意義です。ベトナム人なら、休憩時間に同僚とプライベートな話題も含めて何でもおしゃべりします。それが良い人間関係やお互いの理解につながっています。 まとめ 私は日本の会社に入って日本人の働き方や仕事の文化を学び、見習うべき点が多いと感じています。ベトナムでの働き方とかなり違います。それは文化の違いであり、どちらが優れどちらが劣っていると評価する種類のものではないと思いますが、採り入れることで自分の仕事を改善できるのであれば、それも一つの方法です。 今回は、日本の職場の良い点として「オン・オフの切り替え」と「公私の区別」を紹介し、残念に感じる点として「昼休みの使い方」をお伝えしました。お互いのビジネス文化を理解し、仲良く働いていきたいですね。
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「特急」「急行」「快速」などの違い-首都圏
首都圏(東京を中心とするエリア)にこれから住む人や住み始めたばかりの人には、大きな駅で迷子になったり目的地への行き方が分からなくなったりして困ったという経験をお持ちの人も少なくないでしょう。また、列車の種類も多いので、どの列車に乗ると目的駅に早く着くのか、追加料金がかかるのかどうか、などで迷うことも多いと思います。慣れない人でも首都圏でスムーズに電車に乗れるよう、「特急」「急行」「快速」など列車の種類別の速さや追加料金の有無などについて解説します。 1.JRの列車の種類と違い 東京の山手線の列車(普通列車) JRにも私鉄にも「速い列車」と「遅い列車」があります。特急、快速、急行、快速急行、通勤快速、準急などは速い列車で、普通や各駅停車は遅い列車です。 JRでは、速い順に並べると、特急>急行>特快・快速・通勤快速>普通となります。JRでは、このうちすべての「特急」と「急行」で追加料金が必要です。 JRの「特急」「急行」 特急とは「特別急行列車」の略称で「急行」よりもさらに速い列車です。特急は大きな駅にしか停車せず、座席などの車内設備も他の列車より高級です。このため、通常の運賃に加えて「特急料金」が必要です。特急料金は指定席の場合と自由席の場合とで少し違います。ちなみに、新幹線も特急の一つです。 急行も大きな駅にしか止まりませんが、特急よりは多くの駅に止まります。通常の運賃に加えて「急行料金」が必要です。 JRの特急や急行には名前があります。 【JRの特急の名前の例】 ・「あずさ」「かいじ」=中央線(塩尻、甲府、八王子、新宿駅などに停車)・「ひたち」「ときわ」=常磐線(水戸、いわき、仙台などに停車)・「成田エクスプレス」=東京都心と成田空港の間で運行・「踊り子」「湘南」=東京と伊豆方面との間で運行 特急「あずさ」(新宿-松本) 私の体験 私は長野県の有名な観光地「松本城」に行くために、新宿から特急「あずさ」に乗って松本へ向かいました。8時に新宿を出て車内で友だちとしゃべりながらあっという間に2時間半が経ち、松本に到着しました。運賃は4,070円で、特急券は2,550円(計6,620円)でした。快速などを乗り継いで行くと4,070円だけで済みますし、夏休みなどに青春18切符を使うともっと安いですが、時間は4時間半ぐらいかかってしまいます。私の場合は、2,550円を払っても特急を使ってよかったと思いました。 「快速」と「普通」 JRでは、特急や急行の次に速いのが「特快(特別快速)」や「快速」で、追加料金は要りません。これらは普通列車と比べると停車駅が少なく、その分、目的駅に早く着きます。「通勤快速」は通勤時間帯にのみ運行する快速のことで、通常の快速より停まる駅がさらに少なくなっています。なお、普通列車は一般的には各駅に停車する列車のことを指します。 中央線の特快列車 2.追加料金の必要な快速・普通(例外) 普通列車のグリーン車 JRの快速や普通列車は基本的に運賃だけで乗車できます。しかし、例外があります。それは、快速や普通列車の一部に連結されているグリーン車に乗った場合です。列車の中央付近に2階建て車両などがあり、他の車両とは外観もシートも違います。J R東日本では、東海道線、横須賀・総武線快速、上野東京ライン(常磐線)、湘南新宿ライン、高崎線、宇都宮線など、多くの路線にグリーン車付きの普通列車があります。これらの車両に乗ると、グリーン券つまり追加料金が必要になります。 普通列車グリーン席の券売機 3.JR以外の私鉄の列車 JR以外の私鉄の場合は、会社によって特急、快速、急行、快速急行、通勤快速、準急、各停など、さまざまな種類の列車があります。速さの順番も私鉄ごとに違います。また、一部の「特急」でのみ特急料金がかかりますが、それ以外では不要です。 表1 首都圏を走る主要な大手私鉄各線の列車の種類 路線名 区間 速い順 東武鉄道 伊勢崎線 浅草~東武動物公園 快速>区間快速>区間急行>区間準急>普通 東上線 池袋~小川町 快速>急行>通勤急行>準急>普通 西武鉄道 池袋線 池袋~飯能 特急「秩父」>快速急行>急行>通勤急行>快速>準急>普通 新宿線 西武新宿~本川越 特急「小江戸」>急行>通勤急行>準急>普通 京王電鉄 京王線 新宿〜京王八王子 特急(特急券不要)>準特急>急行>区間急行>快速>普通 京成電鉄 京成本線 京成上野~成田空港 快速特急>特急>快速>普通 東京急行電鉄(東急) 東横線 渋谷~横浜 特急(特急券不要)>通勤特急>急行>普通 京浜急行電鉄(京急) 本線 泉岳寺~浦賀 快特>特急(特急券不要)>普通 小田急電鉄 小田急線 新宿~相模大野 特急「ロマンスカー」>快速急行>急行>準急>区間準急>普通 追加料金の必要な「特急」と不要な「特急」 JR以外の私鉄の特急は、社によって特急料金の必要な場合とそうでない場合があります。首都圏の主な私鉄では、西武鉄道の特急「秩父」「小江戸」や小田急電鉄の特急「ロマンスカー」などで特急料金が必要です。一方、車内設備や車両デザインなどが普通列車とほぼ変わらず運賃だけで利用できる特急もたくさん走っています。 西武鉄道の特急「秩父」 私の体験 私は来日したばかりころ、友人に会いに新宿から京王八王子に行きました。「特急に乗ると追加料金が発生する」と先輩から教えられていたので、私は快速に乗り、所要時間は1時15分でした。しかし、友人に会うと「京王線の特急は追加料金なしで乗れる」と教えてくれたので、帰りは特急にしました。同じ距離なのに43分しかかからず、楽でした。 逆に、例えば、西武鉄道の池袋から秩父に行く際に特急「秩父」に乗ると、運賃790円に加えて特急料金710円がかかり、所用時間は77分です。快速急行を利用する場合は、特急料金は不要で所要時間は107分です。「秩父」はとても快適ですが、留学生や技能実習生には、「30分だけの違いなら快速急行を使おう」という人も多いのではないでしょうか。 京王線の特急(追加料金不要) 4.まとめ 首都圏の鉄道各社の列車の種類と速さ、追加料金の有無などについて、私の体験を交えて紹介しました。首都圏の電車は他の地域より本数や行先などがずっと多いため、慣れた人には便利ですが、初心者や外国人は混乱してしまいます。そのため、Google Mapなどの乗り換え案内アプリを利用して行先までの運賃や特急料金、所要時間などを事前に確認するとよいでしょう。また、列車の停車駅は駅のホームの案内板でも表示されるので、チェックしてみてください。 もし、その列車に乗ると追加料金がいるかどうか分からないときは、車両の外観である程度判断しましょう。「ほかの列車より座席が豪華でゆったりとしている」「車両のデザインがおしゃれ」などの特徴がある列車は、もしかすると追加料金が必要な列車かもしれませんので、ちょっと注意してくださいね。
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ベトナムの常識・日本の非常識_17:日本企業が重視する「名もない仕事」とは?
日本の企業文化や仕事のマナーは世界でも一目置かれていますが、ベトナム人が日本で働くと最初はとまどうこともあります。日本の企業文化の中でも重要な「名もない仕事」とはなんでしょうか? また、「日本では家族より仕事の方が大事」というのは本当でしょうか? 「名もない仕事」 私はベトナムで16年間働き、その後、ここ3年間は日本のホテルで受付係として働きました。ベトナムでは、例えば、上司から「ウォーターサーバーのボトルを換えてきてください」と指示された場合、新しいボトルを持って行って空のボトルと交換すれば作業完了です。これを読んでいる皆さんも「ボトルを換えて」と言われて換えたのだからそれで終わりだと思うでしょう。 しかし、日本ではそれで作業完了ではありません。ボトルを交換するのは当然で、それに加えて、サーバーのトレイがぬれていいないか、ホルスターの紙コップは十分かなども確認しなければなりません。 もし、トレイがぬれていれば、日本人従業員なら自発的にぞうきんを持ってきてふき取り、ホルスターの紙コップが少なくなっていれば補充します。私はそういった仕事を「名もない仕事」と呼んでいますが、日本ではこのような「名もない仕事」もできる人が「仕事のできる人」として評価されます。 ぬれたトレイをふくことも、少なくなった紙コップを補充することも、お客様のためには必要なことで、いずれだれかがしなければなりません。ボトル交換を指示された従業員がそれに気付いて対処しなければ、上司が後で気付いて別の人に指示するか、紙コップがなくなってからお客様に指摘されてだれかが対応することになるでしょう。しかし、そうなる前に先に気付いて対応してくれる従業員がいれば、上司もお客様も助かります。これは日本の良い企業文化や仕事のマナーの一つだと思います。 それでは、日本人の多くはなぜそのような対処をできるのでしょうか? その一つは、日本の会社が「一つの仕事が他のどのような仕事とつながっているか」という業務の流れを従業員に包括的に教育していることが背景にあると思います。 また、日本では「一を聞いて十を知る」という言葉があります。一から十までだれかの指示を受けなければできないようでは半人前で、一つのことを聞いて関連する多くの事柄を学んだり、一つの指示を受けて関連業務も自分で考えて対処したりすることが大切だという考え方です。これは日本の職場で古くから使われている言葉で、日本の企業文化の重要な要素となっています。 日本では家族より仕事が大事? 「子どもの具合が悪いので、2時間ほど早く帰宅させてください」「子どもの学校の保護者会があるので、出社を遅らせてください」「母を病院に連れて行かなければならないので、会社を休ませてください」 このような会話はベトナムのオフィスではごく一般的です。私自身もベトナムで働いていたころは、子どものかかりつけの歯科が勤務時間内しか診療してなかったので、子どもを歯科に連れて行くためによく休みをいただきました。会社側も「家族は仕事よりも大事」という考え方で、家族に関連する遅刻や早退、休暇については気軽に認めてくれたものです。 しかし、日本では、家庭の事情で仕事を休んだり遅出・早退したりすることは、当たり前のこととは捉えられていません。日本のサラリーマンは「ひんぱんに欠勤したり遅出・早退したりすると出世に響く」と考える傾向があり、会社に相談する前に、親や友人に頼むなどできるだけ自分の出勤に影響を与えないように努力します。会社を急に休む人はあまりいません。 また、「所定の期限までに自分の仕事を完了させることは1人1人の責務」と考えることが一般的で、自分のやるべき仕事が定時に終わらなければ、終わるまで残業してから帰宅します。中には休日に仕事をする人もいます。こうした残業や休日労働に賃金が支払われないケースもあり、「サービス残業」と呼ばれて日本の長年の社会問題にもなっています。 このように、日本では「家庭より仕事が優先」という風潮が社会を長く支配してきました。これは日本の経済競争力の源にもなっていますが、バランスが必要だと指摘されています。 バランスを欠く例としては、私の娘が日本の小学校に通っていたとき、卒業式の準備が間に合わないため、担当の先生方が帰宅せず学校で2泊して作業を続けたことがありました。その先生の1人は娘の友人の母でしたが、そのとき、父親も仕事から早く帰ることができず、友人はコンビニ弁当を買って夕食を済ませるしかなかったそうです。 ただ、最近は「会社での出世や名誉より生活の充実の方が大事」と考える若者も増え、日本の企業文化も変容を迫られています。政府も「働き方改革」という施策を掲げ、働きやすい環境作りを推進しています。その結果、企業も有給休暇取得を奨励したり、早退などにも柔軟に対応したりするようになり、少しずつ変わってきてはいます。
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ベトナムの常識・日本の非常識_10:会社の床で昼寝すると驚かれる?
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