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仕事や通勤が原因で起きたけがや病気(労災)の治療費を「労災保険」で支給してもらう方法を解説!

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2023年12月27日

日本の労災保険とは、労働者が仕事や通勤が原因でけがや病気をしたときに、保険から治療費や生活費などが支払われる制度です。労働者を1人でも雇っている会社などは労災保険に加入する義務があります。この記事では、労災保険の種類や対象者(労災保険からお金をもらえる人)、請求方法などについて紹介します。

1.労災保険とは?

労災保険は外国人も使える

仕事や通勤が原因でけがや病気が発生することを「労働災害」と呼びます。「労災保険」は、労働災害のけがや病気に関する治療費や生活費などを保険で支払う制度です。「労災保険」の正式名称は「労働者災害補償保険」です。

日本で働いている外国人も労災保険から治療費などを受け取ることができます。

労働災害 仕事や通勤が原因でけがや病気が発生すること。通称「労災」。
労災認定 労基署が労働者のけがや病気を労災と認定し、労災保険給付(補償)の支給を決定すること。
補償 労災のけがや病気によって生じた損害(治療費など)を埋め合わせること。具体的には「保険給付」のこと。
給付金 保険給付で支給されるお金
年金 毎年支給される給付金

労災保険と健康保険の違いは?

公的な医療保険(健康保険、国民健康保険)もけがや病気の治療費を補償してくれます。しかし、健康保険や国民健康保険は、仕事や通勤と関係がないけがや病気の治療費などを補償しますが、労災の病気やけがには使えません。

2.労災の具体例

労働災害(労災)には次のようなものがあります。

仕事中の労災(例)

  • 上から落ちてきた部品や工具に当たってけがをした。
  • 作業台が倒れて自分も転落し、けがをした。
  • 資材につまずいて転び、けがをした。
  • 作業中にフォークリフトにはねられてけがをした。
  • 重いものを運んで腰が痛くなった。
  • 機械に指をまき込まれて切断した。
  • 高いところから落ちて大けがをした。

通勤中の労災(例)

  • 歩いて通勤中に熱中症になった。
  • 通勤中に車にはねられた。
  • 通勤中に駅まで自転車で行く途中に転倒してけがをした。
  • 歩いて通勤中に転んでけがをした。

さまざまな労災

これら以外に「職場のパワハラやいじめでうつ病になった」「長時間労働が原因で心臓や脳の病気になった」といったケースも労災に認定される可能性があります。ほかにもさまざまな労災があります。

3.労災保険の対象者

アルバイトも労災保険の対象

労働者を1人でも雇用している事業者(会社など)は労災保険に加入しなければなりません。

保険料はすべて事業者が負担します。

・労災保険の対象は正社員だけではありません。パート、アルバイト、契約社員、日雇いなどすべての労働者が労災保険の対象です。派遣社員の場合は、派遣会社が労災保険に加入します。

「労働者」かどうかの判断

「労働者」かどうかは実質で判断

会社と業務委託契約を結んで働いており、会社の指揮命令を受けない人(個人事業主やフリーランサーなど)は「労働者」ではなく、原則として労災保険に加入できません。しかし、業務委託の形式であっても、実質的には会社の指揮命令に従って働いている人は労働者とみなされ、労災保険を使うことができます。

特別加入制度

会社の社長や役員、個人事業主などは「労働者」ではないので、労災保険に加入できません。ただし、このような人たちが労災保険に加入できる「特別加入」という制度もあります。

4.主な労災保険給付は7種類

労災保険給付の種類

労災保険給付の名称

労災保険給付の名前は、業務災害の場合と通勤災害の場合とで異なります。複数の仕事が原因で起きた労災への保険給付も違う名前です。

保険給付の名前 内 容
〇〇補償給付 業務災害(仕事が原因で起きたけがや病気)に対する給付
〇〇給付 通勤災害(通勤中に起きたけがや病気)に対する給付
複数事業労働者〇〇給付 複数の仕事が原因で起きたけがや病気に対する給付

労災保険給付の種類

労災保険給付は主に7種類あります。

療養(補償)給付 業務(仕事)や通勤が原因で起きたけがや病気の治療に対する給付
休業(補償)給付 業務や通勤が原因で起きたけがや病気で働くことができなくなり、給料をもらえない場合の給付。休み始めて4日目の分からお金がもらえる。
傷病(補償)年金 業務や通勤が原因で起きたけがや病気が1年6カ月たっても完治せず(症状が固定せず)、一定以上の障害があるときに、休業(補償)給付から切り替えて支給される年金。
障害(補償)給付 業務や通勤が原因で起きたけがや病気の症状が固定し、一定程度以上の身体障害が残った場合の給付(年金を含む)。
遺族(補償)給付 労働災害で死亡した場合、遺族に生活保障のために給付される年金や一時金。
葬祭料等
(葬祭給付)
労働災害で死亡した場合、葬儀を行った人に葬儀費用の一部を給付。
介護(補償)給付 障害(補償)年金または傷病(補償)年金の受給者のうち、特に程度が重い障害を持ち、介護を受けている人への給付。

「複数事業労働者給付」の記載は省きました。

労災保険で支払われないもの

労災に関連する治療費・入院費などは労災保険で支払われますが、会社があなたにけがや病気をさせたことへの「慰謝料」などは労災保険では補償されません。

慰謝料などを支払ってもらいたい場合は、会社などと交渉し、場合によっては裁判などを起こす必要があります。ただし、会社側に安全配慮義務違反などの過失や法律違反がない場合、裁判をしても、請求は認められません。

5.労災は「業務災害」か「通勤災害」

労災には「業務災害」と「通勤災害」の2つがあります。

業務災害

仕事が原因で起きた労働災害を「業務災害」と言います。例えば次のようなケースです。

  • 仕事中のけが
  • トイレなどで仕事を中断しているときのけが
  • 仕事の準備中や後かたづけ中のけが
  • 出張中のけが

業務災害と認められるためには、業務遂行性業務起因性が必要です。

業務遂行性 仕事中に起きたけがや病気であること。在宅勤務中でも、勤務時間中に生じたけがや病気であれば、基本的に業務遂行性が認められる。
業務起因性 仕事がけがや病気の原因になっていること。勤務時間中でも、仕事と関係がない原因でけがをした場合は、業務起因性が認められない場合がある。

精神障害や脳の病気、心臓の病気については、業務に起因するかどうかの判断が難しいので、厚生労働省が認定基準を設けています。

通勤災害

通勤が原因で起きた労働災害を「通勤災害」といいます。通勤災害と認定されるためには次の4つの条件が必要です。

① 移動の内容
② 移動と仕事の関連性
③ 合理的な経路や方法による移動であること
④ 移動が仕事ではないこと

それでは、この4つの条件について説明します。

① 通勤災害が認められる移動内容

  • 自宅と勤務場所との間の往復
  • 勤務場所から他の勤務場所への移動
  • 単身赴任先(仕事のために家族と離れて住んでいる場所)の家と家族が住んでいる家との間の往復

通常の移動経路から大きく外れる場合や移動を中断している場合、中断後に移動する場合は、「通勤」に含まれません。例えば、帰宅途中の飲み会やその後の移動は「通勤」に含まれません。

ただし、日常生活に必要なものの購入や通院のためにいつもの通勤経路を外れたり移動を中断したりすることは「通勤」に含まれます。

② 移動と業務の関連性

通勤災害と認められるには、けがや病気が起きた日に勤務が予定されていたか、実際に勤務をしたことが必要です。また、「単身赴任先の家と家族の住んでいる家との間の移動」については、勤務日の前日・当日・翌日の移動でなければなりません。

③合理的な経路や方法による移動であること

合理的な理由がなく遠回りや寄り道をした場合、「通勤」には含まれません。

④移動が業務(仕事)ではないこと

業務(仕事)での移動が原因の労災は「通勤災害」ではなく「業務災害」です。

6.労災保険給付の申請方法

労災申請とは

労災保険からお金をもらうには、けがや病気が「労働災害」だと認定されなければなりません。労災を認定するのは労働基準監督署(労基署)です。

労災申請 労基署に労災保険給付の支給を請求(申請)すること
労災認定 労基署が労働者のけがや病気を労災と認定し、労災保険給付の支給を決定すること。正式には「労災保険給付支給決定」。

労災保険給付の請求書(=労災認定の申請書)には会社などが記入する欄もあるので、会社などが申請書を作成して提出することが一般的です。申請書のフォーマットは下記ページにまとめられています。

external link 労災保険給付の請求書|厚生労働省

労災申請の手順

会社に相談(会社が対応しない場合は、労基署に相談)

労災保険給付の請求書を作成し、必要書類と一緒に会社の近くの労基署に提出

労災事故の調査:労基署が労災事故について調査

労災認定(=労災保険給付の支給決定):労災と認定されると、指定の口座に給付金が振り込まれます。

時効

労災申請には2年または5年の時効(申請期限)があります。

労災申請のくわしい方法や時効については、厚生労働省のパンフレットを読んでください。

external link 労災申請に関する外国人向けパンフレット|厚生労働省

7.労災保険指定医療機関

多くの場合、労災申請の結果が出る前に病院に行きます。そのときは、労災申請をする(した)ことを病院に伝えてから受診してください。その医療機関が「労災保険指定医療機関」であれば、療養(補償)給付として、自己負担なしで受診できます。

external link 「労災保険指定医療機関」の検索ページ|厚生労働省

→その後、けがや病気が労災に認定されなかった場合は、健康保険などを使うことになるので、健康保険などの自己負担分を支払います。

→「指定医療機関」以外の病院で受診した場合は、まず労働者が医療費を立て替えて支払います。その後、労災に認定されると、立て替えた医療費が戻ってきます。

8.まとめ

・仕事や通勤が原因でけがや病気が発生することを労働災害(労災)と呼びます。労災保険は労災によるけがや病気の治療費などを保険で支払う制度です。

・外国人も労災保険から治療費などを受け取ることができます。

・労災には「業務災害」と「通勤災害」の2種類があります。

・労災保険給付は主に7種類あります。

  • 療養(補償)給付
  • 休業(補償)給付
  • 傷病(補償)年金
  • 障害(補償)給付
  • 遺族(補償)給付
  • 葬祭料等(葬祭給付)
  • 介護(補償)給付

・一般的には会社が労災保険給付の請求書を作成します。会社が対応しない場合は、会社の近くの労基署か各地の支援団体に相談してください。

・労基署があなたのけがや病気を労災と認定すれば、指定の口座に給付金が振り込まれます。