体験談(技能)

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By KOKORO(毎日新聞社+VAIJ主催、在ベトナム日本国大使館など後援)

今回の先輩

Trần Thanh Sơn (チャン・タン・ソン)さん

1991年生まれ、ハノイ市出身
2009年 6月 VAN NOI高校卒業
2009年 9月 Phuong Dong(フンドン)大学工学部入学(メカトロニクス専攻)
2014年 1月 Phuong Dong大学工学部卒業
2014年 6月 静岡県の工場で技能実習開始
2017年 5月 技能実習修了
2017年 6月 ハイフォン送出機関入社
2018年 2月 送出機関退社
2018年 3月 SEI CONSULTING VIETNAM (SEIV)入社=正社員

はじめに

「住友電気工業(住友電工)」グループは世界に28万人以上の従業員を抱え、2018年度は約3兆1780億円(約692,609,871,870,000 VND)を売り上げた世界有数の企業グループだ。ベトナムにも15社あり、40,000人以上(うち日本人は約100人)が働いていている。技能実習中に日本語能力試験(JLPT)N2を取得し、帰国後にこのグループに就職したソンさんは、働きぶりが認められている。ソンさんは実習中にどうやって勉強しどんな交流をしたのか、今の会社に採用されたポイントは何だったのか、ソンさんの体験談や人事担当者の話を紹介する。

職場で仕事をするソンさん【2020年2月】

住友電工グループでの仕事

 住友電工グループは電線・ケーブルの開発技術を基幹として、「自動車」「情報通信」「エレクトロニクス」「環境エネルギー」「産業素材」の5分野で事業を展開しています。私が務めるSEIV社はベトナムのグループ各社にコーポレートサービスを提供する会社で、私はハノイ市郊外のタンロン工業団地で働いています。通訳兼エンジニアスタッフとして、グループ各社の技術研修の講師や通訳、資料の翻訳などを担当しています。

事業イメージ(住友電工のHPより)

住友電工グループの面接

私は2017年に技能実習を終えて帰国しました。帰国直後は、実習前にお世話になった送出機関から誘われて入社し、日本語教師などを担当しました。しかし、仕事内容に満足していなかったので、翌年、人材会社の紹介でSEIV社の面接を受けました。日本人3人による日本語での面接でした。面接官の1人が社員研修を模して技術に関する説明を行い、それを私が通訳するという、模擬通訳も行いました 。

住友電工グループの面接時にソンさんが提出した履歴書【2018年】

履歴書に多くは書きませんでしたが、面接で聞かれて多くを答えました。日本で経験したこととして、▽スケジュールを守るなど仕事のやり方を学んだこと▽分からないことは日本人の先輩に聞き、技術も日本語も上達したこと▽毎週、ボランティアの日本語教室に通い、スピーチコンテストにも出たこと▽日本人の先生の家で文化交流会に参加したこと――などを話しました。

ボランティアの日本語教室の先生が自宅で開いた国際交流会に参加【2017年3月】

【インタビュー】
※編集部が、ソンさんの面接をしたうちの1人、三島憲彰(けんしょう)さんに聞きました。

 ・ソンさんの働きぶりはどうですか?
――とてもまじめに前向きに働いてくれています。今も日本語の勉強を続け、日本語力がさらに上がっています。また、明るくて、だれとでも仲良くできます。

 ・日本帰りのベトナム人にどういう役割を期待していますか?
――ビジネスでも使える日本語力があれば、通訳兼スタッフとして日本の本社とのやり取りを任せたり、研修講師を担当してもらったりします。また、日本語力がそこまでいかなくても、日本の仕事の文化をよく理解している人には、日本人とベトナム人の橋渡し役を期待します。

 ・日本から帰国したベトナム人を採用する際、面接で何を重視しますか?
――日本在留歴よりも日本語か英語の実際の会話力をまず見ます。また、在留中に何を身に付けたのか、何を努力したのかなどを明確に説明できるかどうかが大切です。単に「日本で仕事や勉強をしました」というだけでは、ほかの人と同じなので、決め手にはなりません。

職場でベトナム人の先輩と【2020年2月】

技能実習

私は大学でロボットクラブに入り、「ABUロボコン」というロボットコンテストに3回参加しました。ロボット工学が好きだったので、日本の技術を学びたいという気持ちもあり、技能実習に応募しました。2013年1月に実習の面接に合格し、翌月から4カ月間勉強して日本に行きました。エンジニアより技能実習の方が早く訪日できると人材会社から説明され、実習を選びました。

コンテストに向けて仲間と一緒に取り組んだロボット製作【大学時代】

実習先は山梨県富士市内の工場で、エアコンや冷蔵庫の部品を製造していました。プレス加工や溶接、組み立て作業、ベトナム人の後輩と会社との間の通訳などを担当しました。

技能実習先の工場で先輩・同僚の方々と【2016年3月】

私の家計簿(1カ月の平均)

※100円=21,540 VND(2020年3月29日現在)

手取り給料(80,000円~120,000円)

手取り給料 80,000円~120,000円
※税金、社会保険料、寮費を引いた後の手取り額
※このうち寮費は25,000円(水道・光熱費含む、寮は1室に4人=2段ベッド二つで狭かった)

支出(合計 30,000円~50,000円)

Wi-Fi 500円
※8人で分担
食費 20,000~25,000円
※主に自炊
雑費・交通費 10,000~20,000円
※衣類、交通費、たまに外食

差額(貯金) 50,000円~80,000円

※3、4カ月に1度、両親に送金(=3年間で200万円以上)
※残ったお金で少しだけ旅行

ベトナム人12人で登った富士山の頂上。あこがれだった桜、富士山、金閣寺、寿司のすべてを日本で体験できました。【2016年8月】

日本語の先生やベトナム人の生徒仲間と「西湖いやしの里根場」へ【2015年】

日本語での勉強

訪日直後は日本語があまり分かりませんでしたが、こつこつ勉強し、訪日半年後の2014年12月にN4に合格、15年7月にN3に合格、16年7月にN2に合格しました。

実習先の寮は狭く、1室に4人だったので、集中できるように仲間が眠っている時間に勉強しました。夜11時に寝て朝4時に起き、6時まで勉強です。ベッドわきの小さな机が勉強スペースでした。仲間の寝顔に明かりが当たらないよう、ついたてなどで光をさえぎって勉強しました。また、音読は玄関の外に出て廊下でやりました(冬は寒かったです)。昼休みにもノートで復習しました。

ベッドわきの小さな机が私の勉強スペース

教材は「みんなの日本語(26~50巻=N4対策)」やNHKの” News Web Easy“というサイトを使いました。このサイトでは簡単な日本語でニュースが紹介され、漢字にフリガナも付いています。携帯電話やアイパッドで読んで廊下で音読しました。それ以外には主に下記の教材を使いました。

N3向け

「耳から覚える日本語能力試験 語彙トレーニングN3」

「日本語総まとめ N3 文法」

「KANJI LOOK AND LEARN」

N2向け

「新完全マスター読解 日本語能力試験N2」

「耳から覚える日本語能力試験 語彙トレーニングN2」

「日本語総まとめN3文法」

「mazi」(インターネット)

mazii https://mazii.net/

mazii https://mazii.net/search?hl=vi-VN

N2、N3の試験直前

「パターン別 徹底ドリル 日本語能力試験」

私のノート

私は、帰国後の仕事を考えた結果、せっかく長く日本に住むのだから、お金を稼ぐだけではなく日本語学習をがんばろうと思いました。そして、机上の学習に加え、できるだけ会話の機会を作りました。職場では日本人に積極的に話しかけ、休日もいろんな人と交流しました。

職場でも昼休みに30分間、日本語を勉強【2016年11月】

国際交流の民間活動に参加

実習先のベトナム人の先輩から教えられ、毎週日曜日に2時間、日本人ボランティアによる日本語授業を受けました。寮から教室までは下り坂なので、行きは自転車で30分、帰りは80分かかりました。生徒はベトナム人が最多で約20人(実習生、エンジニア)おり、東南アジアや南米など様々な国の生徒がいました。ここでの共通言語は日本語で、休日も日本語を使う機会ができました。

FILSで参加した最後の授業。同レベルの生徒でクラス分けされ、日本語で話し、日本人教師から指導を受けました。【2017年5月】

これは富士市国際交流ラウンジFILS(フィス)という国際交流団体でした。FILSの活動で、日本語学習だけでなく、お祭りや敬老会など様々な地域活動にも参加しました。代表の斎藤先生や奥さんの玉子先生は年に数回、パーティーを開催したり、私たちを観光地に連れて行ったりもしてくれました。私たちはこのご夫婦を「パパさん、ママさん」と呼んでいました。

約100人が参加し日本人と外国人が交流したFILSの忘年会【2016年12月】

後輩の方々へ

日本人には親切でやさしい人がたくさんいました。彼らは仕事に対する責任感が強く、自分を管理して計画的に仕事をします。そして、日本の景色はとてもきれいですし、鉄道などの公共交通が発達していてとても便利です。また、和食(特に寿司)が美味しいです。日本に行く価値はとても大きいと思います。

寮の近くの公園でベトナム人の実習生仲間と【2017年4月】

私は、日本での様々な体験や努力のおかげで、帰国後によい会社に就職できました。ここでは、大学で学んだ知識も技能実習中に学んだ職業文化や日本語も仕事に生かせますし、毎日の仕事がさらに勉強になります。このような会社で働くことで、妻や娘(0歳)を持つ身としては安心感もあります。これから日本に行く皆さんも、行く前にしっかり準備をし、行ってからは時間を有効に使って、今後の人生に役立つものを積極的に身に付けてください。応援しています。