体験談(技能)

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By KOKORO(毎日新聞社+VAIJ主催、在ベトナム日本国大使館など後援)

今回の先輩

グエン・ティ・ゴックさん
  • 2016年 6月レクイドン高校卒業〈カムファ市〉
  • 2016年 8月靴工場に勤務〈ハイズオン県〉
  • 2017年 2月日本語センター入所〈ハノイ〉
  • 2017年 7月訪日→講習→工場で技能実習〈名古屋県〉

〈1998年生まれ、カムファ市出身〉

はじめに

ベトナムの一流大学に合格しながら家庭の事情で進学をあきらめたゴックさん。日本で技能実習をしながら日本語能力試験(JLPT)N2に合格。今はN1を目指しており、日本語の会話力もすぐれている。ゴックさんの充実した日本生活と日本語学習の両立について紹介する。

経済的理由で大学を断念

高校卒業後、ハイズオン省の勤務先で〈2016年〉

私は国立大学の一種である 財政アカデミー(Học viện Tài chính)に合格しましたが、家庭が貧しいので行かせてもらえませんでした。

日本への出発直前に妹(左)やめいとハノイの動物園で〈2017年〉

父は単身赴任でカムファの工場に勤務し、母はハイズオンで魚の干物を売っています。私は高校卒業後、ハイズオンの工場で半年間働きましたが、日本語を学びながらお金を稼いで家族を支援したいと思い、技能実習を目指しました。いとこが先に日本に実習に行き、彼のお母さん(私の伯母)に送金しているのを見て、私もと思ったのです。

送出機関と受入組合

日本語センターの教室とクラスメート

いとこが技能実習後に就職したハノイの送出機関に依頼し、送出手数料などに4,000 USD(米ドルで支払い)、食費に9,000,000ドンを支払いました。また、訪日後の失踪を防ぐ保証料として1,000 USDを送出機関に預けました。日本に持って行った現金は2万円だけでした。
【編集部からのアドバイス】 ベトナム政府の規定で、技能実習生への日本語の教育費は約520時間に対し5,900,000ドン以下、送出手数料は3,600 USD以下(3年契約の場合)となっています。日本への往復の旅費は日本の受入企業が負担する決まりです。また、送出機関が失踪防止のために保証金を預かることは禁止されています。費用などが規定と違う場合は、内容を確認した上で送出機関から領収書をもらいましょう。また、他の送出機関の選択も検討しましょう。

技能実習の内容

実習仲間や職場の上司と飲み会〈2019年10月〉

私の実習先の工場は名古屋市内にあり、車のワイパーの部品や浴室のシャワーの部品を製造しています。私は機械を操作したり製品をチェックしたりする担当です。工場で働く十数人のうちベトナムの技能実習生は9人(女性6人、男性3人)です。ただ、日本人は2階で、ベトナム人は1階で働いているので、仕事で日本語を使う機会はほとんどありません。

日本語の勉強

私は2017年7月に日本に来て2018年12月にJLPTのN3に、2019年12月にN2に合格しました。夕食後に毎日2時間、日本語の勉強をしています。土日は4時間以上勉強し、たまに遊びに出かけた日でも、帰宅してから勉強します。適した場所がないので、ベッドの上にちゃぶ台を置き、そこに教材を広げています。

私は2017年7月に日本に来て2018年12月にJLPTのN3に、2019年12月にN2に合格しました。夕食後に毎日2時間、日本語の勉強をしています。土日は4時間以上勉強し、たまに遊びに出かけた日でも、帰宅してから勉強します。適した場所がないので、ベッドの上にちゃぶ台を置き、そこに教材を広げています。

【教材など】 N3対策には主に「日本語総まとめ」シリーズを使いました。しかし、N2には一発で合格しなかったので、その後は、「TRY! 文法から伸ばす日本語」と「新完全マスター」シリーズを中心に使っています。

また、You Tubeの学習チャンネル「日本語の森」をよく見ます。

左:Lotus Works の宿題をオンラインで提出 右:先生から採点されて返却。分からない部分は授業で質問

【オンライン学習】

職場で日本語を使う機会がないので、NPO法人「Lotus Works」のオンライン無料授業を2年前から受けています。毎週1回(1時間)、Skypeを使ってボランティアの日本人の先生から文法・読解・漢字を教わっています。先生と会話をするので、会話やヒアリングの練習にもなります。先生から宿題も出され、採点・添削をしてくださいます。 Link:Lotus Works

左:Lotus Works の宿題をオンラインで提出 右:先生から採点されて返却。分からない部分は授業で質問

また、それ以外にFacebookで呼びかけてベトナム人3人の学習グループを作り、毎週火曜の夜に1、2時間、SNSのビデオ電話で日本語会話をしています。この中の1人は日本語がペラペラです。この学習はベトナムに帰ってからも続けたいと思っています。

日本を楽しむ

左:テト用に作った料理〈2020年1月〉 右:普段の手作り料理

私の趣味は旅行と料理です。ベトナム料理をよく作ります。母が料理上手で、私も中学生のときから母を手伝っていたので得意になりました。今年のテト(旧正月)の料理もほとんど自分で作りました。パンも自分で焼きます。
旅行は、2018年に高校時代の友人(留学生)を訪ねて新幹線で大阪・京都に行きました。2019年には、長距離バスで東京・横浜に行き、ハノイの日本語センターで仲のよかった同期と再会。その後、群馬県の同期3人とも合流しました。

◇大阪・京都〈2018年8月〉

◇横浜で親友と再会〈2019年4月〉

◇群馬県のあしかがフラワーパーク〈2019年5月〉

◇高山〈2019年2月〉

また、2019年2月には、職場の実習仲間3人で岐阜県高山市への日帰りバスツアー(ベトナム語ガイド付き)に参加しました。雪が降る様子を見たかったのですが、あいにくその日は雨でした。でも、積もった雪を始めて体験できました。

◇高山〈2019年2月〉

日本の食文化も大好きです。

普段の外食 ラーメンが大好き。ひいきはチェーン店の「来来亭」
特別な外食 焼き肉はもっと好き。日本の焼き肉はベトナムの焼き肉よりおいしい。友だちもみんな焼き肉が大好き。家族がもし日本に来たら、焼き肉屋に連れて行ってあげたい。
好きな菓子 日本のチョコレートはベトナムより安くておいしい。私のお勧めは「キットカット」

来来亭のラーメン

キットカット

日本での生活

職場の工場の隣に私たちの寮があります。1階が資材置き場で、2階が寮です。職住近接ですし化粧もしませんので、朝8時に起きて8時半から働いています。終業は17時半で、以前は残業があったのですが、最近は新型コロナウイルス感染拡大の影響で残業がありません。

私の家計簿(1カ月の平均)

※100円=21,770ドン(2020年6月22日現在)

収入(合計110,000円~140,000円)
手取り給料

110,000~140,000円

※税金、社会保険料、寮費、水道・光熱費を引いた後の手取り額し

※このうち寮費は9,000円

※寮は2ベッドルームに6人。台所・シャワー・トイレは室外で共同

支出(合計30,000円~35,000円)
Wi-Fi

800円

※同室の6人で分担

食費

25,000円~30,000円

※主に自炊

携帯電話

0円

※SIM不使用(Wi-Fi利用のみ)

雑費

5,000円

※交通費、たまに外食

※化粧品も衣類もあまり買わない

差額・貯金(70,000円~100,000円)
差額

70,000円~100,000

※2年10カ月間で実家に約270万円送金

※年3回の長期休暇のときは、旅行などでお金を使うので送金額は少ない

土日も寮で勉強をしますが、寮の仲間と近くにある広大な公園「戸田川緑地」などに自転車で遊びに行くこともよくあります。お弁当を持って行ってピクニックを楽しむ日もあります。

◇近所の公園で日本の四季を楽しむ=春

◇近所の公園で日本の四季を楽しむ=夏

◇近所の公園で日本の四季を楽しむ=秋

家族と将来の夢

母と妹〈ハイズオン省で2018年〉

私には小学5年生の妹がいます。毎週2、3回、SNSで母とビデオ通話をしますが、途中から必ず妹も入ってきます。ある日、「リンちゃんは私に会いたいですか」と聞くと、妹は「会いたいです」と鳴き声になりました。中学生のときの夏休み、祖母の家に私だけが1カ月間滞在して実家に帰ると、妹が私に抱きついてきて泣きました。小さいころから両親が仕事で忙しく、妹と2人で過ごす時間が長かったので、私が家にいると妹はずっとそばにくっついています。この3年間、一度も帰国しなかったので、実習が修了したら、早く帰ってあげたいです。

帰国後は、いろいろな仕事に挑戦してみたいですが、できれば、日本語力を生かした仕事に就きたいです。もしベトナムでいい仕事が見つからなければ、特定技能の在留資格でまた日本に戻れたらとも希望しています。