日本では毎年4月後半から5月前半にかけてマンションのベランダや一戸建ての庭で色鮮やかなコイの吹き流しが風になびいているのを見かけます。私は日本に留学してから数年間、この季節になると、「このコイの吹き流しにはどういう意味があるだろう?」と思っていました。その後、日本人男性と結婚して長男が生まれ、このコイは「こいのぼり」と呼ばれ、5月5日の「こどもの日」(日本の祝日)の風物詩であることを初めて知ったのです。
5月5日の「こどもの日」はベトナムの6月1日と似ていて、みんなが子供への愛情を表す日です。これは奈良時代に「端午(たんご)の節句」という男の子のお祝いの日が中国から日本に伝来したことが始まりです。1948年に日本政府がこの日を「こどもの日」と名付け、「子供の成長や健康を願う日」として国民の祝日にしました。しかし、その後も日本人のほとんどはこの日を「男の子の日」と思っています。3月3日の「ひな祭り」が「女の子の日」としてお祝いされていることが背景にあるのかもしれません。
地元の小学生たちが作ったこいのぼりを飾る商店街〈東京都中野区で2021年4月〉
それでは、なぜ「こいのぼり」が「こどもの日」のシンボルになったのでしょうか?その理由も日本に伝来したある昔話が始まりと言われています。「コイが竜になる」という中国の伝説にちなんで、コイは努力や根性の象徴とされています。ベトナムの文学にも「コイの登竜門」という伝説があります。魚の群れが努力して竜門という滝を昇るなかで、多くの魚はあきらめて(力尽きて)下流に流されてしまいますが、コイだけはあきらめずに最後まで頑張って竜門に入り、竜へと姿を変えたという話です。この伝説の影響もあってか、日本では「勢いがよいこと」や「出世」を意味する「コイの滝登り」という慣用句が生まれました。そして、「こどもの日」には男の子の健やかな成長や将来の活躍を願って「コイのぼり」を飾るようになり、世界でも有名な日本の5月の風物詩となったのです。
最近は、日本の子どもが減ったことなどもあって、こいのぼりを飾る家庭は昔に比べて減りました。その代わり、学校や地域、ショッピングモール、商店街などにさまざまな大きさや形のこいのぼりが飾られるケースが増えました。大型のこいのぼりが川や並木など公共の場にたくさん飾られている光景もよく見かけます。
コイのぼり以外にも、この日に武士の人形やかぶとなどを飾る風習もあります。私の家庭も、長男が生まれてからこどもの日にちなんで夫の両親からかぶと飾りや男の子の絵画をいただきました。こういった心のこもったプレゼントや励ましをもらうと、日本人のお互いを大事に思う気持ちを感じます。
お風呂にショウブの葉を入れる「菖蒲湯」
男の子の健康や活躍を願うこの日、特別な料理を作る家庭もあります。また、武事・軍事を尊ぶ意味の「尚武(しょうぶ)」と同じ発音の「菖蒲(しょうぶ)」という植物の葉をお風呂に入れる風習もあります。そして、こどもの日は大型連休中でもあるので、親族が集まって子や孫の成長をお祝いする機会にもなります。
かしわもち
日本ではベトナムと同じように祝日ごとに特別な料理があります。こどもの日には赤飯や「ちまき」(ササなどの葉で包んだ甘いもち)、「かしわもち」(カシワの葉で包んだあんこもち)が販売されます。自分で作るお母さんもいます。カシワは、新芽が出るまで古い葉が散らないうえ、もちを包んだときの葉の形がかぶとに似ていることから、強さを象徴しています。「ちまき」や「かしわもち」などはスーパーでも売られているので、男の子がいる家庭をこの日に訪問する場合は、お土産に持っていくと良いかもしれません。「日本の文化に精通していますね!」と相手もきっと感動するはずです。
5月上旬は、新年度が始まって1カ月経ち、少し落ち着いたころです。また、4月29日の「昭和の日」、5月3日「憲法記念日」、5月4日「みどりの日」や土曜・日曜と合わせてゴールデンウィーク(GW)と呼ばれる大型連休になります。家族がゆっくり団らんできる時間もとれるので、こどもの日にも子どもたちとの思い出作りに適したイベントが数多く開催されます。私たちは毎年この日、近くの公園で他の日本人家族や外国人家族と一緒に、紙のコイのぼりに色をぬって楽しんでいます。このコイのぼりは、家に持って帰って子供の成長の記録として大事に取っておきます。保育園などでも、こどもの日の少し前に折り紙でかぶとを作ったり将軍ゲームをしたりします。また、公共の場にもたくさんのこいのぼりが飾られます。
今年は新型コロナウィルス感染症の影響で中止となったイベントが多いのですが、機会があれば、こいのぼりがたくさん空を泳いでいる場所を訪れて写真撮影やSNS投稿などを楽しんでみてくださいね!
こいのぼりを楽しめる有名な場所やイベント
・東京タワーの333匹のコイのぼり・こいのぼりの里まつり(群馬県甘楽町)・浅野川のコイ流し(石川県金沢市)・杖立温泉鯉のぼり祭り(熊本県小国町)
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