福島県二本松市の山の中腹(標高約700㍍の地点)にある古い寮に住み、養鶏場で技能実習を続けてきたシムさん。彼女は3年間、連休が一度もありませんでしたが、今回、勇気を振り絞って会社と交渉し、有給休暇を取得しました。そして、7泊8日の思い出深い旅行を体験することができました。>
寮の近くからの風景
シムさんたち3人が住む寮は山の中にあり、最寄り駅まで約20㌔、大きなスーパーまでは約30㌔もあります。一番近い民家でさえ寮から3㌔近く離れていて、一番近い商店(ガソリンスタンド内の売店)までは、そこからさらに1㌔近くあります。
このように大変不便な場所に住んでいますが、寮からガソリンスタンドまではずっと坂道なので自転車も使えません。また、この地域には、町に行くためのバスすら通っていません。文字通り「陸の孤島」で、マイカーがないと生活が成り立たない地域です。
シムさんたちの寮
それにもかかわらず、シムさんたちの会社はスーパーへの買い出しのために月1回しか車を出してくれません。しかも、人員を増やさずに休みなくローテーション勤務を回したい会社側の都合で、技能実習生には、年末年始・GW・お盆も含めて一切連休がありません。
有給休暇は、通院する場合や会社が決めた日程で単発的に与えられますが、2連休すらなく、有給休暇の日数も労働基準法の規定にまったく足りていませんでした。
「陸の孤島」「会社のサポートなし」「連休なし」という信じがたい条件のため、シムさんは2021年6月に技能実習を終えるまでの約3年間、二本松市から出たことがありませんでした。月に1回の楽しみは、買い出しの際に仲間と一緒に回転寿司を食べることでした。
有給休暇の申請用紙
このような状況を知ったKOKOROの記者とオンライン無料日本語教室でシムさんを教えてきた清水先生、支援団体「外国人実習生支援」の榑松(くれまつ)代表の3人は、有給休暇に関する法律(労働基準法)の規定などをシムさんに教えました。
external link 有給休暇に関するリーフレット(OTIT作成)
そして、シムさんは今年6月、有給休暇の申請書(日本語とベトナム語の2カ国語)を会社の課長に渡しました。会社はすぐにはよい返事をくれませんでしたが、最終的には8連休を認めてくれました。
東北新幹線・東京駅に降り立ったシムさん〈2021年7月3日〉
ただし、会社も監理団体も有給休暇中の移動はサポートしてくれません。「月1回の買い出しには車を出すが、それ以外には車を出さない」というスタンスで、シムさんには駅に行くための交通手段がありませんでした。タクシーだと片道1万円を超える可能性があります。そこで、榑松さんの友人で福島に住む後藤さんという人がマイカーでシムさんを送り迎えしてくれることになりました。
こうして技能実習修了直後の7月3日、シムさんは日本に来て初めて旅行に出かけました。
■7/3:後藤さんの車で郡山駅に行き、新幹線に乗車。東京駅ホームで清水先生と合流。 ■7/4:東京観光 ■7/5:東京観光、浴衣体験 ■7/6:名古屋観光 ■7/7:名古屋観光 ■7/8:京都観光(嵐山、金閣寺、清水寺) ■7/9:東京観光、家族や同僚へのお土産を購入 ■7/10:東京観光。福島に戻り、再び後藤さんの車で寮に帰宅。
清水寺(京都)
技能実習生も正社員も継続勤務期間が6カ月になった時点で10日間の有給休暇を取得できます。その後1年経つと新たに11日間、さらに1年経つと新たに12日間の有給休暇を与えられます。有給休暇を十分に取得したい人は下記リンクから申請用紙をダウンロードして記入し、会社や監理団体(組合)と相談してください。
external link 有給休暇の申請用紙(2カ国語)
会社や監理団体に相談してうまくいかない場合は、外国人技能実習機構(OTIT)に相談してください。また、「外国人実習生支援」などの相談機関もあります。
external link OTITの母国語相談
external link 外国人実習生支援(FB)
シムさんは、後藤さんに山奥まで車で送り迎えしてもらい、東京ではボランティア日本語教師の方々から旅費のカンパをいただき、清水先生の家にも泊めてもらい、京都では清水先生の友人にマイカーで案内してもらいました。梅雨で雨がちな天気でしたが、旅行中にたくさんの親切に触れ、とてもよい思い出になったそうです。
シムさんは帰国便を確保するまで「特定活動」の在留資格で引き続き養鶏場で働きます。日本に来るときに6歳だった長女は9歳、3歳だった長男は6歳になっています。早く帰国したいと願うシムさん。帰国前によい思い出ができて、よかったですね。
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山の中の寮から買い物先のスーパーまで車で1時間近くかかるのに、会社が連れて行ってくれるのは月に1度だけ。休日も毎月4、5日間だけで、GWも夏休みも正月休みもなし。悪条件の技能実習体験を紹介する。
スアンさんは一流大学に合格したが家庭の事情で入学せず、ベトナムで日本語を2年間勉強してから技能実習を始めた。職場で信頼され、実習修了後は特定技能外国人になった。
失踪した技能実習生の不安定な生活や不法就労の後ろめたさを紹介します。失踪すると、無収入の月も多いですし、働くと違法になります。
外国人在留支援センター(FRESC=フレスク)に行ってみました。弁護士による相談窓口や入管、ハローワークなどがワンフロアに集まり、通訳付きで連携して対応してくれます。