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妊娠で解雇されそうになった外国人が会社に解雇を撤回させた方法とは?―ベトナム人2人の実例を紹介

ninshin- (11)
2023年12月17日

日本では、外国人であっても、妊娠を理由に労働者を解雇することはできません。外国人も出産・育児のための休暇を取って雇用契約を続けることができます。技能実習生の場合も、出産・育児のために技能実習を一時的にストップし、休暇終了後に実習を再開することができます。この記事では、日本で妊娠を理由に解雇されそうになった2人のベトナム人(特定技能外国人、技能実習生)がどうやって日本で働き続けることができるようになったかを紹介します。

1.妊娠しても退職・帰国する必要はありません

妊娠・出産を理由に解雇することは違法

日本の法律は、妊娠・出産を理由に従業員に解雇などの不利益な取り扱いをすることを禁じています。技能実習生や特定技能外国人もそれ以外の外国人労働者もこの法律で守られています。

このため、会社などが妊娠を理由に外国人労働者に退職や帰国を求めることは違法です。また、そのような内容の契約も違法です。

技能実習生は実習を一時的に中断できます

技能実習生が妊娠したときも、技能実習を続けることができます。

  • 妊娠しても技能実習をやめる必要はありません。
  • 妊娠を理由に帰国する必要はありません。送出機関との間でそのような約束をした場合でも、従う必要はありません。
  • 技能実習生も妊娠しながら働き続けることができ、出産前後は休暇をとることができます。
  • 出産前後の休暇中は技能実習を一時的にストップ(中断)し、休暇が終わってから再開することができます。中断期間は技能実習の期間にカウントされません。

external link 妊娠しても退職・帰国する必要はありません|KOKORO

2.出産で帰国する前にビザを更新しましょう

出産のために帰国し、出産後に日本に戻ろうとすると、再来日までに日本の在留期間が終わっていることがあります。その場合、ベトナムで日本の新しい在留資格を取るには多額の費用や複雑な手続きが必要です。そこで、ベトナムに帰国する前に入管で在留資格(ビザ)を更新し、出産後に再来日したときに在留期間が残っているようにすることができます。

出産でベトナムに一時帰国する前に入管で在留資格を更新してもらうには、申請書以外に下記のようなものを提出します。

  • 雇用契約書(コピー)
  • 母子健康手帳(コピー)
  • 医師の診断書
  • 理由書
  • 帰国のための航空券(コピー)

「理由書」とは「出産のために帰国し、その後日本に戻って働きたいので、在留期限を日本に戻る少し後に設定してほしい」というお願いと理由を書いた手紙のことです。通常は、組合(監理団体)に書いてもらいます。

出産で一時帰国する前に在留資格を更新するための申請に対しては、入管の手続きは通常より速いとのことです。

3.妊娠したために退職届けに署名させられた技能実習生はどうやって復職できたか?

日越ともいき支援会の吉水代表(右)とジャンさん

妊娠を理由に退職届けに署名

ベトナム人支援団体「日越ともいき支援会」に2023年6月15日、メッセンジャー(SNS)で次のような相談(ベトナム語)が届きました。

「今の会社で約7カ月働いていますが、妊娠してしまいました(連休中に岐阜県で技能実習をしている夫に会いに行きました)。組合(監理団体)から、会社に軽作業の仕事はないと言われて、1週間ぐらい休ませられています。会社は私を寮にも住ませてくれなくなり、このままでは帰国させられそうです。私はどうしたらいいですか?」

福岡県の食品加工工場で働いている技能実習生、ジャンさん(20代)からのメッセージでした。

支援会の吉水代表は翌16日に東京から福岡にジャンさんに会いに行き、「一緒に外国人技能実習機構(OTIT)に行きましょう」と提案しました。しかし、ジャンさんはとても落ち込んでいたので、その日はOTITに行けず、吉水さんが帰ったあと、組合から「妊婦でもできる仕事がないので、退職して帰国しなさい」と言われ、退職届けに署名してしまいました。そして、岐阜県の夫のところに行きました。

相談を受けたOTITが会社と組合に指導

ジャンさん(左)と吉水さん=岐阜県で2023年

そこで、吉水さんがOTIT名古屋事務所に相談すると、OTITの担当者が岐阜にいるジャンさんと吉水さんに会いに来てくれました。妊娠を理由に解雇することは違法です。また、妊婦ができるような仕事を考えるのは会社の責任です。OTITはジャンさんと吉水さんの話を聞いて、監理団体と会社に法律に従うように指導してくれました。

また、ジャンさんは吉水さんのアドバイスで「ともいきユニオン」という労働組合に加入して組合員になり、労働組合がジャンさんの雇用について会社に団体交渉を申し入れました。「ともいきユニオン」は外国人向けの労働組合で、「連合ユニオン東京」という大きな労働組合とつながっています。

労働組合の団体交渉で会社は退職を取り消し

団体交渉は憲法で保障された権利なので、労働組合から団体交渉の要求があった場合、会社は応じなければなりません。ジャンさんは7月7日の団体交渉(オンライン)で「会社に戻りたい」と言いました。会社はOTITから指導を受けたことや、法律をよく知っている労働組合が交渉を行っていることから、ジャンさんの要求をすぐに受け入れ、ジャンさんは復職できることになりました。

技能実習を中断し、出産・育児のためにベトナムに帰国

その後、ジャンさんは日越ともいき支援会や組合に手伝ってもらって、入管に在留資格の更新を申請し、それまでの在留カード(有効期間:2023年8月まで)を新しい在留カード(2024年7月まで)に切り替えてもらいました。

ジャンさんの出産予定日は2024年2月ごろですが、体調が悪いこともあり、その約半年前にベトナムに帰りました。ベトナムで出産し、新しい在留カードの有効期間が終わる前に日本に戻って技能実習を再開する予定です。

4.妊娠を理由に解雇されかけた特定技能外国人のケース

妊娠したと報告したら、実質的に解雇通告

特定技能外国人として愛知県のトマト農家で働いていた30代のベトナム人女性、ガーさんが妊娠しました。

ガーさんは、もとは縫製の技能実習生で、3年間の技能実習を修了後、新型コロナの影響で帰国が難しかったので特例措置で日本に残って縫製の仕事を続けていました。その間に特定技能・農業の技能試験に合格して派遣会社に転職し、2022年9月からこの農家に派遣されていました。妊娠が分かったのはその翌月でした。

ガーさんは12月、妊娠したことを派遣会社に相談しました。すると、会社から「あなたは病気だから働けません。来月から2カ月間、通常の月給の60%を払うので、3カ月目からは失業保険で生活してください」と言われました。

「解雇」という言葉は使っていませんが、雇用契約が終わった人に支給される失業保険を受けるように言っていますので、実質的には解雇通告に当たる可能性があります。

労働組合が会社に団体交渉を申し入れ

オンラインで行われた団体交渉

ガーさんは翌月、「日越ともいき支援会」にメッセンジャーで相談(ベトナム語)しました。すると、支援会の吉水代表ら2人が愛知県までガーさんに会いに来て状況を聞いてくれました。

そして、ガーさんは労働組合「ともいきユニオン」に加入して組合員になり、労働組合が派遣会社に団体交渉を申し入れました。

休暇をとって働き続けられることを会社が約束

団体交渉はオンラインで行われ、ガーさんや通訳以外に吉水代表と「連合ユニオン東京」の担当者が出席しました。

労働組合は会社にガーさんの雇用を継続してもらうことや産前産後休暇の取得などを求めました。すると、派遣会社の役員は「解雇通告をしたというのは誤解だ。担当者が自分の考えで発言したが、会社の方針ではない」と説明し、要求を受け入れました。

こうしてガーさんは働き続けることができるようになりました。労働組合はこれ以外に、下記のようなことも要求し、会社に聞き入れてもらいました。

  • 産前産後休暇を取りたい。その間の給料も支払ってほしい。
  • 出産のためにベトナムに帰国する前に在留資格(ビザ)の更新を手伝ってほしい。
  • 出産育児一時金の手続きをしてほしい。
  • 育児休業の申請もしてほしい。
  • 妊婦健診の受診をサポートしてほしい。

出産で帰国する前に在留資格を更新

ガーさんの出産予定日は2023年6月で、在留期間は2023年7月まででした。このままでは、出産のために帰国し休暇を終えて再来日するときには、在留期間が終わっています。

そこで、ガーさんは会社に協力してもらって、帰国前に入管に在留資格の更新を申請しました。すると、約1週間で新しい在留カードが発給され、在留期間は2024年7月になりました。

ベトナムに帰国して出産後、日本に戻って復職

ガーさんはその後もトマト農家で働き、2023年4月にベトナムに帰って6月に出産しました。産前産後休業と育児休業を取得した後、2024年7月に日本に戻り、同じ派遣会社で仕事を再開する予定です。

5.困ったときはここに相談しよう!

日越ともいき支援会の吉水代表(左)

妊娠を理由に退職や帰国を強制されたときは、労働基準監督署に相談してください。また、技能実習生の場合は外国人技能実習機構(OTIT)に相談してください。ベトナム語でメッセージを送ることもできます。

技能実習を一時的にストップしてその後に再開することや、出産のために帰国し、その後また来日することについて、監理団体がサポートしてくれない場合も、OTITに相談してください。

external link OTITの母国語相談窓口

1人で労基署やOTITに相談してもうまくいかないときは、実績のある民間の支援団体にサポートしてもらいましょう。

external link 日越ともいき支援会|KOKORO

external link ベトナム人向け相談窓口|KOKORO

6.妊娠・出産・育児に対する公的サポート

日本で妊娠・出産・育児をする場合、外国人もさまざまな公的サポートを受けられます。これらについて知っておき、必要な場合は、会社に手続きを依頼しましょう。

妊婦へのサポート

  • 母子健康手帳(母子手帳)
  • 妊婦健康診査

出産・育児に対するサポート

  • 出産育児一時金(50万円)
  • 出産手当金
  • 育児休業給付金
  • 健康保険、厚生年金、国民年金の保険料免除
  • 乳幼児医療費助成
  • 育児手当
  • 児童扶養手当

このような助成・手当を受給できる条件や金額については、下記の記事を読んでください。

external link 出産・育児への助成・手当・支援制度(総まとめ)|KOKORO

7.まとめ

この記事では、妊娠を理由に解雇されそうになった特定技能外国人や技能実習生がどうやって働き続けることができるようになったかを紹介しました。

日本では、外国人であっても、妊娠を理由に労働者を解雇することはできません。これは技能実習生や特定技能外国人にも当てはまります。実習生の場合は、技能実習を一時的にストップ(中断)して出産・育児のための休暇を取得し、休暇終了後に実習を再開することができます。

日本で働いているときに妊娠し、会社などから退職や帰国を迫られても、応じる必要はありません。労基署やOTIT、民間の支援団体などに相談してサポートしてもらいましょう。