体験談(技能)
2019.9.22
毎日新聞・岩崎日出雄
今回の先輩
Nguyen Thi Khuyen(グエン・ティ・クエン)さん
1996年生まれ、フンイエン省出身(ハノイ市郊外)
2014年6月 高校卒業
2016年2月 長崎県で技能実習
2019年5月 ミライエ日本語センター教師
Email: nguyenthikhuyen96hy@gmail.com
はじめに
私は長崎県の「株式会社 雲仙きのこ本舗」で技能実習生として3年間働きました。ベトナム人女性ばかり約30人の技能実習生が働く職場で、寮生活で実習生の間に強い絆が育ちました。また、職場の日本人も皆、親切でした。「技能実習先は必ずしもよい職場ばかりではない」と聞きますが、私のように職場に恵まれると、楽しく仕事をすることができます。また、上司が私たちに「がんばって日本語を勉強したら、技能実習が終わってベトナムに帰国してからも就職の役に立つ」といつも励ましてくれたこともあって、私は技能実習の3年間に毎年1回ずつ日本語能力試験(JLPT)を受け、5段階中最高ランクの「N1」を取ってから帰国しました。今はハノイで日本語の教師をしています。
ここでは、
・私の技能実習での仕事の内容
・技能実習中の給料と生活、両親への仕送り額
・訪日後3年足らずでN1を取得するに至った日本語学習のノウハウ
・送出機関の選び方
――などを紹介します。
雲仙きのこ本舗での仕事(実習)
私は2016年2月、ハノイの同じ送り出し機関で学んだ同期生5人と一緒にこの会社に赴任しました。仕事(技能実習)は朝8時から夕方5時までで、途中で昼休みが1時間ありました。室内栽培のきのこを収穫し、計量し、袋詰めし、箱詰めして出荷する仕事でした。
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きのこを計量器で量って100gずつに分け、コンベアに乗せると、機械で袋詰めにされて出てきます。その後、包装のきれいなものとそうでないものとに分け、箱詰めします。取り扱ったきのこには、えのき、まいたけ、えりんぎ、なめこ、ぶなしめじ、などがありました。
夕方5時以降も、たいてい30分~2時間の残業がありました。作業所は数カ所あり、私の常駐していた作業所で残業がないときは、他の作業所に自動車で連れていってもらって残業しました。
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実習中の給料と生活、送金
仕事の休日は水曜日と日曜日でした。夏はきのこがあまり売れないので残業が少なく、給料も少なかったのですが、冬はきのこがよく売れるため残業が多く、給料は夏より多かったです。税金や社会保険料、寮費を差し引いて手元に残るお金は、季節によって違いますが、毎月8万円~14万円でした。ここから食費や雑費を支出し、残りを貯金しました。
給料は日本の銀行口座に振り込まれ、2カ月に1回、現金を引き出して郵便局のATMから送金会社のカードを使ってベトナムの両親に送りました。銀行で現金を引き出して郵便局に行くまで安全なように、いつも同僚の実習生と一緒に行きました。2カ月に1度の送金額は15万円ぐらいが多く、3年間で計約300万円を送金しました。
私の家計簿(1カ月の平均)
※100円=21,625 VND(2019年9月22日現在)
手取り給料(合計80,000円~140,000円)
手取り給料 | 80,000円~140,000円 ※税金と社会保険料、寮費を差し引いた後の額 (このうち寮費は15,000円/寮は2人で1部屋▽ 台所・食堂・トイレ・シャワーは共同▽電気・ガス・水道代含む▽インターネットwifi無料) |
支出(合計22,000円~40,000円)
食費 | 10,000~15,000円 ※自炊 ※地方なので、食材が安い |
携帯電話 | 0円 ※LINE電話で両親や友人に連絡。SIMカード使わず。 |
雑費 | 10,000円~20,000円 ※衣類や日本語のテキストなど |
交通費 | 2,000円~5,000円 ※休日にたまに買い物や遊びで出かけた |
毎月の平均残額(貯金) 70,000円~120,000円
※夏は残業が少なく収入が少ないが、冬は残業が多く収入も多い。
※貯金を2カ月に1回、両親に送金。1回の送金は15万円程度。
親切な上司たち、あたたかい職場
雲仙きのこ本舗では、職場の日本人たちが私たち技能実習生に親切にしてくれました。中にはつらい職場(実習先)もあると聞きますので、私は職場に恵まれたのだと思います。 [show_more more=▼続きを読む less=▲閉じる align="center" ]
ある作業所の年配の女性は、残業の時にいつも栄養ドリンクとお菓子を私たちに出し、「食べてから仕事したらいいからね」と優しく声をかけてくれました。また、どうしても送金したい日に銀行や郵便局に行く時間がぎりぎりになったときや送金額が大きいときは、本社の森塚課長が私たちを自動車で郵便局まで送り、そばに付き添ってくれました。[/show_more]
私はこうして日本語を勉強した
本社の森塚課長は機会があるたびに私たちに「日本語をしっかり勉強し日本語能力試験(JLPT)に合格したら、ベトナムに帰国してからもいい仕事に就ける」と言って、私たちの日本語学習を後押ししてくれました。JLPTの受験の際は、試験会場まで往復約6時間かけて私たち(受験希望者)を送迎してくれました。
私の日本語学習で役だったのは①職場での日本語会話②日本語学習のYouTube動画③先輩推薦のテキストとCD--でした。夕食後、だれもいなくなった寮の食堂でYouTube動画やテキスト、CDで1人で勉強しました。私が使ったYouTube動画やテキストを具体的に知りたい方は以下をお読みください。 [show_more more=▼続きを読む less=▲閉じる align="center" ]
①職場で日本人と仕事上の会話
日本人と話す機会の多い職場でした。このことが私の日本語力の向上に役立ちました。私は、仕事のことで分からないことがあったら、すぐに日本人スタッフをつかまえて話しかけたので、 会話の機会が増えました。日本人スタッフは皆さんとても親切に応じてくれました。
②YouTube……日本語学習のYouTube動画をよく見ました。
・「JLPT N1 文法」シリーズ(全40回)
・「Japanese lesson JLPT N1 文字・語彙」シリーズ(全28回)
③テキストとCD……FBでつながったベトナム人留学生(N1取得者)に紹介してもらったテキスト(CD付きのものも含む)を使いました。私の使った主なテキストを紹介します。
・「耳から覚える 日本語能力試験」シリーズ(出版社:アルク)
https://www.alc.co.jp/jpn/article/nihongo/n3-n5/
・「新完全マスター」シリーズ(出版社:スリーエーネットワーク)
https://www.3anet.co.jp/np/list.html?sa=1&q=新完全マスター日本語
私はこうした教材を使い、食堂の壁やベッドなどに「N3絶対合格」などと書いた紙を貼って自分を励まし、毎日勉強しました。毎年1回受験し、2016年12月にN3、17年12月にN2、18年12月にN1に合格しました。[/show_more]
訪日のきっかけと送出機関
私たちは一家でお金を稼ぐ必要が生じ、1歳年上の姉が私より1年早く栃木県に技能実習に行きました。2歳年下の弟も2018年11月から長野県で実習中です。私はハノイの送り出し機関で日本語を3カ月間学習した後、求人があって面接を受け、技能実習生への採用が決まりました。その後、送出機関と自習で日本語をさらに計6カ月間学習し、ある程度の日本語は分かる状態で日本に行きました。
技能実習生の送出機関(会社)は、親戚の知人(紹介エージェント)が私たち3人にそれぞれ別々の会社を紹介してくれました。その際、1回の紹介につき手数料2000万ドン(約93,000円)をエージェントに支払いました。
【編集部からのアドバイス】
技能実習制度では、仲介者(紹介エージェント)が介入したり仲介者が手数料を受け取ったりすることを送出機関が許容することは禁じられています。
在ベトナム日本国大使館は、送出機関を選ぶ際は、仲介者を通さず送出機関に直接連絡(電話・電子メールなど)するよう呼びかけています。送出機関に直接コンタクトしてうまくいかない場合は、別の送出機関を選ぶこともできます。
※仲介業者に関する在ベトナム日本国大使館公式サイトのページ
https://www.vn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/Chuukaigyoushanichuui.html
※外国人技能実習機構(OTIT)が公表している送出機関の一覧
https://www.otit.go.jp/files/user/190906-3.pdf
私が紹介エージェントや送出機関に支払った費用やそのために作った借金は下記の通りです。 [show_more more=▼続きを読む less=▲閉じる align="center" ]
【送出機関に支払った金額】
・授業料(半年分)=2,000万ドン
・寮費(半年分)=1,500万ドン
・訪日の航空券と送り出し手数料=計約9,000万ドン
【編集部からのアドバイス】
ベトナム政府の規定では、日本語の事前教育費は約520時間に対し590万ドン以下、送出手数料は3,600ドル以下(3年契約の場合)となっています。また、日本への往復の旅費についても日本の技能実習先(受入企業)が負担することになっています。これらを上回る金額の場合は、費目を確認した上で領収書をもらうようにしましょう。また、金額が不透明な場合は、他の送出機関の選択も検討しましょう。
【紹介エージェントに支払った金額】
・紹介手数料=2,000万ドン
私が行った送出機関には同期生が約30人いましたが、日本語学習のクラスは1教室に6~10人でした。1教室20人以上の送出機関もあるそうですが、少人数の方が密度の濃い学習ができます。なお、送出機関やエージェントにお金を支払うために私は約1億4000万ドン(約65万円)の借金をしました。日本に行って最初の1年で返済できましたが、その1年間は借金返済のためにほとんど遊びに行けませんでした。[/show_more]
現在の仕事とメッセージ
私は帰国後の2019年5月から、技能実習ではなく「技術・人文知識・国際業務」の在留資格でベトナム人技術者を日本に送り出すための日本語教育機関(ハノイ)で教師をしています。現在の月給は約1300万ドンです。将来はまた日本で働けたらと希望しています。
今回は、私の技能実習時代の暮らしや、日本語能力試験(JLPT)を突破するために使った教材、YouTube動画、テキストなどを紹介しました。また、「送出機関は、エージェントに依頼するよりも友人や先輩の体験など情報を集めてよさそうな送出機関を選び、直接コンタクトする方がよい」という情報もお伝えしました。
技能実習制度を利用する場合は、このサイトを含む様々なルートで情報を集めてよい送出機関を選び、日本語学習もしっかりやってから訪日してください。そして、日本でよい人間関係を築き日本語力も伸ばしてから帰国してくださいね(^_^)