体験談(技能)

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By KOKORO(毎日新聞社+VAIJ主催、在ベトナム日本国大使館など後援)

今回の先輩

マイ・ティ・スアンさん
  • 2015年 5月チュック・ニン B高校卒業〈ナムディン県〉
  • 2015年 8月ナムディン日本語日本文化学院入学
  • 2017年 7月ナムディン日本語日本文化学院卒業
  • 2017年 8月訪日→講習〈東京〉
  • 2017年 9月技能実習開始〈宮崎県〉
  • 2020年 9月同じ職場で特定技能開始〈宮崎県〉

〈1997年生まれ、ナムディン省出身〉

今回もナムディン学院出身の先輩が登場。スアンさんは一流大学に合格したが、家庭の事情で入学せず、日本語を2年間勉強してから訪日した。食品加工工場などで3年間働いた後、特定技能に変更し、引き続き日本で働くことになった。彼女の日本語学習の努力や職場での活躍ぶりを紹介する。

日本に行こうと思ったきっかけ

ナムディン学院で校長が開いた食事会。左端が私。〈2015年〉

私は化学と数学が得意でハノイ工科大学(Trường Đại học Bách khoa Hà Nội HUST)に合格しましたが、「学費を払えないし、大学を出てもいい仕事に就けるかどうかわからない」と母に言われました。数年前に父が交通事故を起こして多額の損害賠償金を払ったほか、父が事業で使っていた砂利運搬船も3回沈没し、わが家に大きな借金があったからです。

私は進学をあきらめて日本で技能実習をすることにしました。そして、せっかくなら日本語をしっかり学んでから行こうと考え、地元で評判の高いナムディン日本語日本文化学院を選びました。

ナムディン学院での努力

ナムディン学院の卒業式〈2017年〉

ナムディン学院の授業は午前だけで、午後は生徒が学校の教室で自習(宿題と復習)をします。私たちは午後1時半~4時半に勉強し、運動や夕食を終えて午後7時~10時にも勉強しました。先生方の教え方と学校の雰囲気のおかげで、勉強すればするほど日本語が楽しくなりました。

私はナムディン学院での2年目、四位農園の会長がナムディン学院を訪れたときに面接を受けて合格し、その7カ月後に訪日しました。送出手数料は学院から借り、実習を始めて3カ月で返しました。JLPTについては、在学中にN3を取得し、訪日の翌年にN2に合格しました。今はN1を目指しています。

【編集部からの情報】

ナムディン学院では、生徒が1年半~2年間勉強し、JLPT・N3レベルになってから日本に行きます。授業料は月2,000,000ドンです。遠方の生徒も受け入れます。

生徒に紹介する技能実習先は、学院の教師らが現地を訪問して給料や職場環境などを調べて選んだ職場だけです。送出機関には手続きだけを依頼し、国が決めた手数料しか支払いません。技能実習が終わってから帰国後、もう一度日本に行って留学し、日本で正式に就職するコースも推奨しています。

*ナムディン日本語日本文化学院:namdinhgakko@yahoo.com.vn

ナムディン学院の校長(左奥)が四位農園を訪問〈2019年〉

日本人の先輩のサポート役

工場での作業。右端が私。〈2020年7月〉

私の仕事は朝7時半から夕方4時半までです。最初の半年間は畑で働きましたが、女性実習生の大半が途中で農園内の食品加工工場に移ります。ホウレンソウや枝豆など農園でとれた野菜を冷凍加工する工場です。私は冷凍野菜の包装(袋)の印刷などをチェックし、箱に入れます。袋が箱にいっぱいになると箱(重さ9~16㌔)をパレットに移します。工場の仕事が少ないときは、畑も手伝います。

実習生仲間や日本人の先輩と焼き肉屋へ〈2019年〉

あるベトナム人男性と私が経験も長く日本語もよく話せるので、日本人の先輩たちのサポートをしています。先輩が実習生の配置を決めるのを手伝ったり、通訳をしたり、新しい実習生に仕事を教えたりします。先輩たちと話をすることで日本語の練習になりますし、わからない言葉や間違いを先輩がその場で教えてくれます。先輩たちの車でスーパーに連れて行ってもらったり、一緒にラーメン屋に行ったりすることもあります。

日常生活

女子寮の食堂

ここには40人近い外国人がいますが、私はナムディン学院の後輩3人と特に仲良しで、女子寮で一緒におしゃべりをしたり歌を歌ったりします。学院の行事でよくみんなで歌ったKiroroの「未来へ」をここでも歌っています。寮の台所は共用で、大きな食堂があります。普段はばらばらに食べますが、だれかが実習を終えて帰国する場合などは、みんなで食事会をします。そのときにはお酒も飲みます。

農園の仲間(日本人3人、ベトナム人4人)で観光〈宮崎県で2020年6月〉

実習生用の小さな畑があり、自分たちで食べる野菜を栽培しています。空心菜やゴーヤ、トウモロコシ、インゲン、トマトなどを育てて仲間で分け合い、足りない分はスーパーで買います。買い物には自転車で行きますが、私は日本の運転免許を持っているので、会社のミニバイクを使うときもあります。休日には、仲のよい日本人の同僚や実習仲間と遊びに行くこともあります。これまで、同僚の車で海を見に行ったり大きなショッピングモールに行ったりしました。

私の家計簿(1カ月の平均)

※技能実習時代の家計簿 ※100円=21,982 VND(2020年10月6日現在)

手取り給料(平均110,000~130,000円)
手取り給料

平均110,000~130,000円

※税金、社会保険料、寮費を引いた後の手取り額

※このうち寮費は5,000円、水道・光熱費8,000円、Wi-Fi800円

支出(合計20,000~25,000円)
食費

20,000~22,000円

※主に自炊

雑費・交通費

3,000~5,000円

※服も化粧品もほとんど買わない

差額・貯金(平均90,000円~110,000円)
差額

平均90,000円~110,000円

※訪日当初はもう少し収入が少なかった。

※3年間で計約300万円を両親に送金(自分の貯金はゼロ)

外国人従業員用の畑〈2020年〉

ナムディン学院の先輩たちが通う宮崎県の大学を訪問〈2018年〉

外国人サポート

観光バスで従業員旅行〈熊本県で2019年〉

四位農園では、従業員同士の親睦を図るため農園主催の従業員旅行や忘年会などがあり、国籍に関係なく参加します。また、外国人担当の大山さんという年配の男性がおり、親身になって私たちの相談に乗ってくれます。私は仕事の影響で腰痛になったときなどに彼にクリニックに連れて行ってもらいました。また、職場で人間関係がうまくいかない場合も相談に乗り、場合によっては配置転換をしてくれることもあります。

技能実習生が機械を操縦して枝豆を収穫〈四位農園で2020年7月〉

男性の技能実習生は皆、トラクターの運転免許を持っています。トラクターで畑仕事をするためです。農園の近くに自動車教習所があり、彼らはそこに通います。教習所の費用は約230,000円もしますが、農園が負担してくれます。この免許でミニバイクにも乗れます。私は大山さんからテキストをもらって自分で勉強し、ミニバイクだけの免許を取りました。

技能実習から特定技能に

四位農園では2019年12月に実習を修了した1人が最初の特定技能外国人になりました。私も2020年8月に技能実習が終わり、9月から特定技能に変更して引き続き働いています。特定技能では最長5年間働けます。在留資格変更の際、通常はベトナムに2、3週間帰国するのですが、今は新型コロナに伴う特例で帰国せずに変更しました。私の場合、特定技能になっても仕事内容は同じですが、基本給が5%アップしました。また、今後は日本人と同じように働きぶりを評価され、それに応じて役職や給料も変わっていきます。

枝豆畑〈2020年7月〉

四位農園には現在、特定技能が7人、技能実習生が28人います。女性の方がやや多く、国籍別ではミャンマー人5人以外はベトナム人です。この農園では「外国人を日本人と平等に処遇する」という方針があり、特定技能で残るチャンスを技能実習生全員に与えてくれます。今回は同期生6人全員が残留を希望しました。私は借金返済のために節約を続け、宮崎県の外に旅行に行ったこともありませんが、給料が少し増えたので、今後は同僚と同じように大阪や京都にも旅行したいです。また、日本にできるだけ長くいたいので、特定技能修了後のことも考えて今から準備をしていこうと思います。

今回の先輩

Mai Thị Xuân(マイ・ティ・スアン)さん

  • 2015年 5月チュック・ニン B高校卒業〈ナムディン〉
  • 2015年 8月ナムディン日本語日本文化学院入学
  • 2017年 7月ナムディン日本語日本文化学院卒業
  • 2017年 8月訪日→講習〈東京〉
  • 2017年 9月技能実習開始〈宮崎県〉
  • 2020年 9月同じ職場で特定技能開始〈宮崎県〉

〈1997年生まれ、ナムディン省出身〉

今回もナムディン学院出身の先輩が登場。スアンさんは一流大学に合格したが、家庭の事情で入学せず、日本語を2年間勉強してから訪日した。食品加工工場などで3年間働いた後、特定技能に変更し、引き続き日本で働くことになった。彼女の日本語学習の努力や職場での活躍ぶりを紹介する。

日本に行こうと思ったきっかけ

私は化学と数学が得意でハノイ工科大学(Trường Đại học Bách khoa Hà Nội HUST)に合格しましたが、「学費を払えないし、大学を出てもいい仕事に就けるかどうかわからない」と母に言われました。数年前に父が交通事故を起こして多額の損害賠償金を払ったほか、父が事業で使っていた砂利運搬船も3回沈没し、わが家に大きな借金があったからです。

私は進学をあきらめて日本で技能実習をすることにしました。そして、せっかくなら日本語をしっかり学んでから行こうと考え、地元で評判の高いナムディン日本語日本文化学院を選びました。

ナムディン学院で校長が開いた食事会。左端が私。〈2015年〉

ナムディン学院での努力

ナムディン学院の授業は午前だけで、午後は生徒が学校の教室で自習(宿題と復習)をします。私たちは午後1時半~4時半に勉強し、運動や夕食を終えて午後7時~10時にも勉強しました。先生方の教え方と学校の雰囲気のおかげで、勉強すればするほど日本語が楽しくなりました。

私はナムディン学院での2年目、四位農園の会長がナムディン学院を訪れたときに面接を受けて合格し、その7カ月後に訪日しました。送出手数料は学院から借り、実習を始めて3カ月で返しました。JLPTについては、在学中にN3を取得し、訪日の翌年にN2に合格しました。今はN1を目指しています。

ナムディン学院の卒業式〈2017年〉

【編集部からの情報】

ナムディン学院では、生徒が1年半~2年間勉強し、JLPT・N3レベルになってから日本に行きます。授業料は月2,000,000ドンです。遠方の生徒も受け入れます。

生徒に紹介する技能実習先は、学院の教師らが現地を訪問して給料や職場環境などを調べて選んだ職場だけです。送出機関には手続きだけを依頼し、国が決めた手数料しか支払いません。技能実習が終わってから帰国後、もう一度日本に行って留学し、日本で正式に就職するコースも推奨しています。

*ナムディン日本語日本文化学院:namdinhgakko@yahoo.com.vn

ナムディン学院の校長(左奥)が四位農園を訪問〈2019年〉

日本人の先輩のサポート役

私の仕事は朝7時半から夕方4時半までです。最初の半年間は畑で働きましたが、女性実習生の大半が途中で農園内の食品加工工場に移ります。ホウレンソウや枝豆など農園でとれた野菜を冷凍加工する工場です。私は冷凍野菜の包装(袋)の印刷などをチェックし、箱に入れます。袋が箱にいっぱいになると箱(重さ9~16㌔)をパレットに移します。工場の仕事が少ないときは、畑も手伝います。

工場での作業。右端が私。〈2020年7月〉

あるベトナム人男性と私が経験も長く日本語もよく話せるので、日本人の先輩たちのサポートをしています。先輩が実習生の配置を決めるのを手伝ったり、通訳をしたり、新しい実習生に仕事を教えたりします。先輩たちと話をすることで日本語の練習になりますし、わからない言葉や間違いを先輩がその場で教えてくれます。先輩たちの車でスーパーに連れて行ってもらったり、一緒にラーメン屋に行ったりすることもあります。

実習生仲間や日本人の先輩と焼き肉屋へ〈2019年〉

日常生活

ここには40人近い外国人がいますが、私はナムディン学院の後輩3人と特に仲良しで、女子寮で一緒におしゃべりをしたり歌を歌ったりします。学院の行事でよくみんなで歌ったKiroroの「未来へ」をここでも歌っています。寮の台所は共用で、大きな食堂があります。普段はばらばらに食べますが、だれかが実習を終えて帰国する場合などは、みんなで食事会をします。そのときにはお酒も飲みます。

女子寮の食堂

実習生用の小さな畑があり、自分たちで食べる野菜を栽培しています。空心菜やゴーヤ、トウモロコシ、インゲン、トマトなどを育てて仲間で分け合い、足りない分はスーパーで買います。買い物には自転車で行きますが、私は日本の運転免許を持っているので、会社のミニバイクを使うときもあります。休日には、仲のよい日本人の同僚や実習仲間と遊びに行くこともあります。これまで、同僚の車で海を見に行ったり大きなショッピングモールに行ったりしました。

農園の仲間(日本人3人、ベトナム人4人)で観光〈宮崎県で2020年6月〉

私の家計簿(1カ月の平均)

※技能実習時代の家計簿

※100円=21,982 VND(2020年10月6日現在)

手取り給料(平均110,000~130,000円)
手取り給料

平均110,000~130,000円

※税金、社会保険料、寮費を引いた後の手取り額

※このうち寮費は5,000円、水道・光熱費8,000円、Wi-Fi800円

支出(合計20,000~25,000円)
食費

20,000~22,000円

※主に自炊

雑費・交通費

3,000~5,000円

※服も化粧品もほとんど買わない

差額・貯金(平均90,000円~110,000円)
差額

平均90,000円~110,000円

※訪日当初はもう少し収入が少なかった。

※3年間で計約300万円を両親に送金(自分の貯金はゼロ)

外国人従業員用の畑〈2020年〉

ナムディン学院の先輩たちが通う宮崎県の大学を訪問〈2018年〉

外国人サポート

四位農園では、従業員同士の親睦を図るため農園主催の従業員旅行や忘年会などがあり、国籍に関係なく参加します。また、外国人担当の大山さんという年配の男性がおり、親身になって私たちの相談に乗ってくれます。私は仕事の影響で腰痛になったときなどに彼にクリニックに連れて行ってもらいました。また、職場で人間関係がうまくいかない場合も相談に乗り、場合によっては配置転換をしてくれることもあります。

観光バスで従業員旅行〈熊本県で2019年〉

男性の技能実習生は皆、トラクターの運転免許を持っています。トラクターで畑仕事をするためです。農園の近くに自動車教習所があり、彼らはそこに通います。教習所の費用は約230,000円もしますが、農園が負担してくれます。この免許でミニバイクにも乗れます。私は大山さんからテキストをもらって自分で勉強し、ミニバイクだけの免許を取りました。

技能実習生が機械を操縦して枝豆を収穫〈四位農園で2020年7月〉

技能実習から特定技能に

四位農園では2019年12月に実習を修了した1人が最初の特定技能外国人になりました。私も2020年8月に技能実習が終わり、9月から特定技能に変更して引き続き働いています。特定技能では最長5年間働けます。在留資格変更の際、通常はベトナムに2、3週間帰国するのですが、今は新型コロナに伴う特例で帰国せずに変更しました。私の場合、特定技能になっても仕事内容は同じですが、基本給が5%アップしました。また、今後は日本人と同じように働きぶりを評価され、それに応じて役職や給料も変わっていきます。

四位農園には現在、特定技能が7人、技能実習生が28人います。女性の方がやや多く、国籍別ではミャンマー人5人以外はベトナム人です。この農園では「外国人を日本人と平等に処遇する」という方針があり、特定技能で残るチャンスを技能実習生全員に与えてくれます。今回は同期生6人全員が残留を希望しました。私は借金返済のために節約を続け、宮崎県の外に旅行に行ったこともありませんが、給料が少し増えたので、今後は同僚と同じように大阪や京都にも旅行したいです。また、日本にできるだけ長くいたいので、特定技能修了後のことも考えて今から準備をしていこうと思います。

枝豆畑〈2020年7月〉